民進党政策アップグレード検討会


 格差是正や教育などの人材投資が経済成長に繋がることは今や世界の常識となっている。現政権は金融緩和や財政出動で目先のカネをばらまくことばかり熱心に取り組むが、人材育成に投資する視点が欠落している。人口減少が進む中、人材育成を中心とする「人への投資」を「国家百年の計」と位置づけ、国の責任で行っていく必要がある。それが足元の消費を拡大し、さらに人口減少に歯止めをかけ、一人ひとりが最大限の能力を発揮することで、希望と元気に満ちた我が国の将来へと繋がっていく。AIやIoTなどの急速な進展を考え合わせれば、「人への投資」の拡大・強化は、今すぐに取り組むべき課題である。

 さらに、グローバル経済への対応、ローカル経済システムの再構築という二つの価値観に基づく経済政策を両輪とすることで「人が中心」の経済構造へ転換し、特に地域では人口減少に歯止めを掛ける。

1.「人への投資」~子ども、若者、女性に重点を置く新しい経済政策

(1)全ては子どもたちのために~『教育の無償化』を推進!

 将来の我が国を支える全ての子どもたちに教育の機会を保障することが、ひいては、将来にわたる持続的な成長の基盤を強化する。教育の経済効果は内外の専門家が指摘しており、例えば幼児教育の経済効果は2.8倍になり、大学を含む高等教育の費用対効果は2.4倍になるなど公共事業の経済効果1.1倍を大幅に上回るとの試算が公表されている。

 本来、教育の無償化は、全ての子どもたちに対して教育を受ける権利の保障することが主眼であるが、同時に現在の我が国に最も必要な経済成長をもたらす政策であることを踏まえ、大胆な政策に取り組む。そのため、税制の歪みを正し、能力に応じた負担を求めることを含めて、必要な財源を確保する。また、これらの政策を集中的・効率的に推進するため、「子ども家庭省」を設置する。

(施策)

1) 就学前教育の無償化

2) 小・中学校の給食費等の無償化

3) 子どもたちを区別しない高校無償化

 *海外在住の高校生に対する適切な無償化適用を含む

4) 大学の学費の大幅減免、無利子奨学金の拡充(社会人の学び直しを含む)

 *大学、専門学校(専修学校専門課程)、高等専門学校、短期大学、大学院を対象とし、高等教育の質の確保・向上を前提に、原則として国立、公立、私立の全ての学生等(社会人の学び直しを含む)を対象に国立学校の入学金、授業料相当分を減免することを目指し、地域の人材育成・定着など政策的な観点も勘案しながら、段階的に推進する。また希望者全てに無利子奨学金を提供すると共に学生等の生活の安定を図るための給付型奨学金の創設を検討する。

 (注)大学等の学費の大幅減免は、全ての子どもたちの教育を受ける権利を保障する観点から、経済的理由等により進学を断念することの無い社会を創るために導入する。高校での「デュアルシステム(座学と企業での実習の組み合わせによる職業能力開発)」を拡充すると共に、大学進学より社会に出ることを優先する子どもたち、進路選択に悩む子どもたちを支援するため、高校において様々な課程を履修でき、幅広い進路選択を支援する「総合学科」の拡充を進める。

(財源)

1) 社会全体で子育てを支援する

  • 配偶者控除から「無償化」へ
    ⇒ライフスタイル、働き方に中立な税制を確立し、その成果を子どもたちのために活かす。
  • 金融所得課税引き上げ
    ⇒高所得層(1億円以上)ほど実質の税負担率が低いという矛盾を縮小
  • 資産課税等(相続税・贈与税or医療・介護負担適正化等)
    ⇒社会全体で高度成長期の果実の一部を将来世代に相続する

2) 消費税8%⇒10%引き上げ分の内、1%分

 ⇒子育て支援、教育投資を中心とする「人への投資」で将来にわたる安定的な経済成長を実現し、中長期的には財政健全化と社会保障安定を両立する。

 なお、消費税の引き上げ実施までの間は、外為特会の資金等の一時的な活用を検討する。

3) 「子ども国債」の発行

4) 当初予算の適正化(当初予算の利払費適正化による歳出減)

 ⇒毎年度、当初予算に巨額の国債利払費が計上され、これが結果的に補正予算の公共事業財源に回っている。その要因となっている当初予算での想定金利を現実に即した水準に見直すことで、国債利払費を縮減する。

(2)全ての女性が社会に参画できる社会を創る

 全ての女性の人権を守り、社会に参画したいと望む女性にその機会を保障することは政治の責務であり、同時に経済政策としても重要である。家庭生活優先、子育てと仕事の両立、キャリア形成・経済的自立の優先など女性の中にも様々なライフスタイルがあり、またシングルマザーとして困難な状況に立ち向かっている女性も数多くいる。それぞれに応じた支援策を通じ、社会の中で能力を発揮して貰うことがダイバーシティ、成熟した社会の実現に繋がる。子育てや介護を一方的に女性に押しつける社会的風潮を改め、また女性の社会参画を抑制する税制を見直すことで、女性がその能力を存分に発揮できる社会を、政治のリーダーシップで創造する。

1) 女性の社会参画拡大の壁を撤廃する(配偶者控除関係=再掲)

 仕事をしたい、社会にもっとコミットしたいという女性の意欲を阻害する税制(配偶者控除)を見直し、女性が能力を十分に発揮できる社会をつくる。

2) 育児休業手当の100%支給

夫も妻もより安心して育児休業を取得できるよう、育児休業給付を実質100%支給に拡大すると共に、子育てに参加する男親の権利を保障するため「パパクオータ制」の速やかな導入を検討する。

3) 長時間労働の解消

 男性中心の雇用慣行の解消、ワークライフバランスの推進を図るため、法律で残業時間を規制すること等により、長時間労働を解消する。

4) 同一価値労働同一賃金の確立

 特に女性の多い非正規の待遇を改善するため、「同一価値労働同一賃金」の法律を作り、合理的理由の無い賃金・待遇の差別を禁止する。

5) 中小企業で働く非正規就労者の育児休業支援強化

 非正規就労であっても育児休業が取得可能であることを周知すると共に、中小企業で働く非正規就労者の育児休業取得・復職、代替要員の確保などを支援する「中小企業両立支援助成金」を拡充する。また大企業を含めて、不妊治療の期間に応じた「不妊治療休暇」の導入を検討する。なお、関連して不妊治療の公的助成の拡充を進める。

6) 国政選挙へクオータ制導入

 国際的に見ても政治における女性の参画が進んでいない現状を改めるため、衆議院比例選挙で男女別の名簿作成を可能とする法改正を行う。

2.人が中心の経済政策~世界と地域を見据えた経済政策

 「人への投資」、人が経済の道具になるのではなく「人間のための経済」を実現する。グローバル経済に勝ち抜くための対応とグローバリズム経済に巻き込まれない自立した、しなやかな地域経済の構築という両輪の政策対応を取ることで、強さと多様性を併せ持った経済構造へ転換し、そこから生まれる成長の果実を国民、地域に還元する。

(1)企業行動の変革を促す

1) 研究開発、生産性向上、人への投資などにチャレンジし続ける企業を支援する

 税収中立を前提に、投資拡大に向けメリハリのきいた法人税改革を行う。AI、IoTなどの研究開発を含む投資、生産性向上に向けた投資を積極的に行う企業、賃金引き上げや本社・事業所等の地方移転などにより質の高い待遇、子育てがしやすくクリエイティブな就労環境の創出など「人への投資」を進める企業を税制で大胆に減税する。一方、大都市に本社を置く大企業等の法人税率を引き上げる。また、こうした企業の地方移転の環境整備を念頭に、政府機関の地方分散化を検討する。

2) 中小企業の社会保険料負担を軽減し、地域雇用を積極的に支える企業を支援する

 中小企業雇用拡大の大きな壁である社会保険料負担の減免、中小企業の法人税軽減税率の拡大・恒久化、ホワイト企業の認定制度・ブラック企業の公開制度の改善・強化、障がい者雇用義務制度の強化などにより、地域における雇用の量の拡大、質の改善を進める。

3) 長時間労働是正など「働く者」の立場に立った企業の雇用慣行見直しを後押しする(一部再掲)

 我が国にとって最大の資源が人であるように、企業にとっても人が最大の経営資源である。雇用の安定、労働の価値に見合った待遇、長時間労働解消などメンタルヘルス対策を含むワークライフバラスに即した働き方など質の高い雇用を着実に実現することで、一人ひとりの能力が最大限発揮でき、中長期的には生産性が向上する環境を整える。

 また、総人口が減少する中で、多様な経験、識見、ノウハウを有するベテラン人材を埋もれさせては企業の発展は無い。希望する全ての高齢者が経験等を活用できる良質な職を確保できる環境を国が整備すると共に、そうした取り組みを積極的に行う企業の支援を強化する。

(2)「投資立国」に向けた環境整備

  • グローバル企業向けに「スーパー東証1部」を創設する。
  • 大胆な規制緩和などのハード、知的財産権取得などのソフトの両面で中小企業を含めて企業支援を強化し、生産性の向上、企業の活躍分野の拡大、起業倍増を図る。
  • ソフト面での設備投資等に対する支援を強化すると共に、ビッグデータの活用、電子政府化の加速など、データ経済化への対応を加速する。
  • 通商権限等を一元化し、民間企業と密接なコミュニケーションを取りながら海外の投資環境整備を働きかけ、日本主導の東アジア貿易・投資ルールを策定する。
  • 外為特会保有外貨を活用した海外インフラファンドの創設

(3)「日本列島分散型国家改造計画」~分散型地域循環社会システムへの転換

1) 地域主権改革で地域の資源、能力を活かした地域経済創造を実現する

 「一括交付金」の復活、地域の可能性発揮の障害となる国の一律規制を廃止(条例上書き権の確保)し、地域それぞれの持つ資源、能力を存分に活用できるよう自治体の機能を強化することで、「省エネタウン」「匠のいる町」「大学都市」など個性ある地域経済社会創造を後押しする。

2) 地域社会を支える人を支援し、地域経済の活力に繋げる

 福祉、子育て、障がい者支援、環境保全、町づくりなどの分野で自らの意思で積極的に行動し、「ソーシャルビジネス」「コミュニティビジネス」という形で地域社会を支える人々の活動基盤を整備することで、活動の安定性を高め、活動分野を拡大する。その一環として、社会的投資促進税制の創設・拡充を検討する。

3) 「原発から自然エネルギー」で地域経済を活性化する

 太陽光、風力、小水力、バイオ、熱などの新エネルギーを中心とするエネルギー地産地消の加速、建物の高断熱化などによる省エネの徹底などを内容とする「地域を起点としたエネルギー革命」を進め、域内でお金が循環し、更に域外からのお金を取り込み、それを地域で活用できる仕組みを創ることで地域経済活性化を実現する。

4) 戸別所得補償、6次産業化などで「田園から産業革命」を進める

 生産コストと販売価格の補填することで農家の所得を安定化させる戸別所得補償制度の法制化、農家の所得引き上げに向けた6次産業化、農地等を利用した再生可能エネルギーの利益を農林業再生産に活用する「田園産業特区」を推進する。これらにより、「農業の多面的機能を守る」「農村を守る」という農政の基本を堅持しつつ、さらに「味」「食の安全」などを武器に世界で勝てる農業を構築する「田園からの産業革命」を推進する。

5) 地域と海外の直結、二地域居住で地域の人口を増やす

 地方空港の活用など大都市を経由せずに地域と地域、地域と海外が直接かつ有機的に繋がるためのソフト面を含めたインフラ整備を進めると共に、都市部のみならず地域でも良質・安価な賃貸住宅の供給を進めることで、家計の住居費負担を軽減し、さらには若者の定住や二地域居住を含めた地域人口(交流人口を含む)の拡大を図る。

6) 地域のヒト・モノ・カネの流れを活性化する

 地域内のヒト・モノの移動の活性化を図る観点から、町づくりにおけるユニバーサルデザインの実現や高齢者・障がい者など交通弱者向けの300円タクシーの普及などを図る。特に300円タクシーについては、事業者の負担増を招かないことを前提に、現行の高齢者向け「免許自主返納制度」と組み合わせることで、地域の交通事故防止対策の強化を図る。また地域外との交流拡大のため、地域公共交通の活用などによるモーダルシフトの推進を図りながら、高速道路料金制度について現行の距離制から低廉な定額料金制へ移行するなど既存インフラの有効活用を図る。

 地域のカネの流れを活性化するため、エネルギー関係、農業関係、住宅関係を中心に地域のお金を地域で活かす事業・起業の支援、地域循環型ビジネスを促進するコミュニティファンドを創設する。

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