最近の中国は南シナ海への海洋進出を拡大する等、強硬な姿勢に出ている。民主党政権時代、外相や副総理として日中関係に深く関わった前代表の岡田克也衆院議員に中国の動向や日中関係の展望について聞いた。

中国の大国意識が日中関係を変えた

 ――最近の中国の動向をどう見ているか。

 まず日中関係の重要性を強調したいと思います。何と言っても隣国であり、経済的にも強い相互依存関係にあります。中国との安定的な関係は、わが国の安全保障からみても非常に重要です。日中間の信頼関係を土台に、お互いにとってプラスになる関係を構築していかなければなりません。しかし現実は、私が外務大臣を務めた民主党政権の前半と比べれば、かなり様変わりしてしまいました。

 胡錦涛・温家宝体制までは、天安門事件の発生後に国際的に孤立するなか最初に訪中した外国首脳が海部総理だったことや、中国のWTO加盟に日本が尽力したこと等、中国が世界に登場するにあたって日本が後押ししてきました。私は外相として日中関係に携わるなかで、当時の指導者には、日本との関係を重視する姿勢を感じていました。それが習近平体制になって、大きく変わりました。

 習近平氏がリーダーになっていく時期は、中国はすでに大きくなっていた時代で、日本の地位は相対化されました。「世界の政治・経済の大国」として振る舞うようにもなりました。これは大きな変化だと言えます。このような大国意識が強くなったことによって、中国は南シナ海や東シナ海でより強固な主張をするようになったのだと思います。

日中関係の重要性を認識し関係改善を図るべき

 ――首脳会談もままならない厳しい日中関係をどう改善すべきか。

 安倍政権になってからギクシャクした関係が続いています。先日のぺルーでの習近平氏との会談も、短時間かつ非常に表面的なやり取りに終始しています。もし12月に李克強首相が来日すれば、首相就任後初めての日本訪問です。これも驚きです。その根底にあるのは相互の不信感です。日中関係は重要であり、関係改善をしなければならないということをお互いがしっかり認識することが必要だと思います。

 また、中国側には、日本は米国と同じことを言っているに過ぎないという認識もあります。独立した主張をする国だと見られていないのです。それなら米国と話した方が早く、日本は後からついて来るだろうと。しかし、日本には日本の国益があるわけですから、自らの国益に基づく主張、立ち位置ということも大事だと思います。

  ――11月上旬に訪中したと聞いたが、ご感想を。
 外交の最高責任者だった戴秉国氏ら古い友人と会ってきました。戴氏とは、菅政権での漁船衝突事件や野田政権時の尖閣諸島の国有化等についてじっくり話しました。当時、日本として最善の解決を目指したものであり、今でも民主党政権がとった対応は間違っていなかったと思っています。しかし、日中両国政府間のいろいろな食い違いや認識の違い、あるいは思惑の違いがあって、特に尖閣問題は今でも大きな障害になっています。なぜそうした認識の違いが生じたのかといったことについて、率直に議論しました。日中関係は重要ですから、今後も中国の人たちとさらにしっかりと意見交換していきます。

問題解決に当たっては最後は人と人との信頼関係が大事

 ――尖閣問題等の過去の教訓をどう生かすべきか。
 当時、日本政府は島の持ち主との関係もあり、石原東京都知事が島を買う前にと国有化を急ぎました。中国の政権が胡錦涛体制から習近平体制に変わる前にしっかり処理、つまり国有化をして、新しい政権とはそれを前提にしてスタートを切るべきとも考えました。しかし、中国側は国有化が国の支配をさらに強めるものだという認識でした。さらに政権移行期ということもあって、日本の考えがねじ曲がって伝わってしまった面もあったと思います。
 こうした問題の解決に当たっては、コミュニケーションを取ることの重要さと難しさ、そういう前提の中での信頼関係、最後は人と人との信頼関係というのが非常に大事だと思います。トップレベル、その次のレベル、事務方のレベル、それぞれの信頼関係がないと、どこかでコミュニケーションギャップが生じる可能性があります。もちろん、信頼関係は一朝一夕で築けるものではなく、日ごろから養っておかなければなりません。

若い議員は10年、20年かけて中国の政治家らと交流を

 ――信頼関係構築にあたって政党外交が果たす役割は。
 民主党時代から中国共産党中央対外連絡部(中連部)とは信頼関係を築き、中国からの留学生を引き受けたりと、政党外交を行ってきました。実は、尖閣問題の最終局面で副総理だった私は、外交の最高責任者である戴秉国国務委員(当時)と直接話そうと思いましたが、総理、外相というラインで対応すべきだと考え、思いとどまりました。 戴氏とは中連部部長の時から交流してきて10年以上になります。李克強首相や王毅外相とは、お互い若い時から15年以上の交流があります。やはり政府の肩書がついていない状況、野党でいる間にしっかりした信頼関係を築いておくことが大事なことだと思います。民進党の若い国会議員の皆さんにも10年、20年かけて中国の政治家らとつきあい、信頼関係を築いてもらいたいと思います。

中国の存在感がアジアで増していく中、米国の関与が引き続き重要

 ――トランプ米大統領の誕生が今後の東アジア情勢や日中関係にどのような影響を与えると思うか。

 具体的政策や閣僚の顔ぶれが決まらない今の段階で、不確かな情報に基づいて議論することはあまり意味がないと思います。ただ、今まで米国が進めてきたグローバル化やアジア重視の政策が後退することになると、東アジアのみならずアジア全体が非常に大きな影響を受けることになる。その結果として、中国の存在感がアジアにおいてさらに大きくなることも容易に予想できます。

 今後、米国の出方によっては、東アジアやアジア全体の絵姿が10年後には一変してしまう可能性があります。自由、民主主義といった理念よりも、経済の実利中心の関係、そして米国が後退して中国がアジアの中で更に存在感を増す絵姿です。それは日本にとって望ましいものではなく、その意味で米国をアジアに引き留めることの重要性を、新しい米国政権にも理解してもらうことが重要だと思います。日米関係の重要性についてわれわれも強く認識している以上、与野党を超えた努力が必要です。

(民進プレス改題17号 2016年12月2日号より)

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