参院法務委員会で13日午後、共謀罪法案(組織犯罪処罰法改正案)の審議が行われ、民進党の有田芳生議員は「組織的犯罪集団の周辺者」という言葉が参院の審議で頻発するようになったと問題視。「組織的犯罪集団の周辺者」とは何を指すのか、捜査対象になりうるのかなどと政府の見解をただした。

 有田議員は、オウム真理教の事件を例に、「オウム真理教という組織的犯罪集団の中核には麻原彰晃という教祖がいた。その周辺者とは誰か」「オウム真理教の場合、地下鉄サリン事件や坂本弁護士一家殺害事件等々さまざまな凶悪事件があり、起訴されたのは麻原教祖と、その周りの63人。しかしその周りには、公安調査庁の数字で明らかなように出家信者1千人、在家信者1万人、ロシアには5万500人の信者がいた。これはすべて周辺者ではないか」などと質問。神奈川県警の内部資料では、事件当時実行犯ではない信徒8405人(脱会者231人を含む)に対し視察、内偵、張り込み、尾行などの調査を行っていたことがすでに明らかになっていることから、周辺者も捜査対象になっているのではないかとただした。警察庁の高木審議官は「犯罪の嫌疑が生じていない方を被疑者として捜査の対象としたものではないが、一般論として被疑者との関係性を考慮して何らかの事情を知っている可能性が高いなど捜査の必要性が認められる場合には、相当と認められる範囲内で捜査を行うことがある」と答え、一般人や周辺者も捜査対象となることを認める形となった。

多くの傍聴人が審議を見守った

多くの傍聴人が審議の行方を見守った

 有田議員は、事件から10年後に警視庁の幹部たちと食事をした際、当時信者の家族や弁護士や取材者にも本人に気付かれないように身辺警護を付けていたとして、ジャーナリストとして事件に関わっていた自身にも身辺警護を付け、つねに尾行していたと明かされたことを紹介。「周辺者にだって捜査をしているのが現実だ。周辺者というのはどんどん広がる。今だって一般人も周辺者も捜査の対象となっているものが、法案が成立したらこうした行為が合法化されるのではないか」「大きな問題なのは、この法案が仮に成立すると捜査機関の権限、組織が拡大していくことだ。だから監視社会になるのではないかと多くの人たちが心配している。その歯止めがないではないか」と迫った。

 共謀罪法案をめぐっては、国連特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が「法律の広範な適用範囲によって、プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性がある」と懸念を表明し書簡を出したが、政府はこれに抗議。また、元北海道警察官(警視長)のジャーナリストの原田宏二氏は「捜査対象が大きく広がり、警察の体制や権限が強化されるだろう。組織的犯罪集団の実態をつかむことは、メンバー一人ひとりの情報を調べることと同じなので、警察は何とかして個人情報を集めようとする。憲法が保障するプライバシー権を守るため、警察の情報収集活動に歯止めが必要だ」「組織的犯罪集団かどうかはメンバーを調べて初めて分かる。結果的に一般市民も監視の対象になるだろう」「(捜査に必要な令状については)今は尾行にGPSを使い、張り込みの代わりに通信傍受や防犯カメラを使うデジタル捜査の時代。抑止効果は期待できず摘発されるのはむしろ一般市民。任意捜査と強制捜査の境目のグレーゾーンでうまくやってこそ一人前の刑事と評価される部分がある」などと指摘している。

 有田議員は、こうした指摘を紹介したうえで、「こうした声に答えないまま法案を通すなんてもってのほかだ」と厳しく非難。審議では法案で第7条の2として新設される「証人等買収」についての議論がまったく行われていないとも指摘し、「十分な議論などできていない。これからだ。採決の強行など絶対に許すことはできない」と強く訴えた。