参院本会議で25日、安倍総理帰国報告に対する質疑が行われ、民進党・新緑風会の伊藤孝恵議員が(1)政府の情報開示に対する基本姿勢(2)アメリカ大統領選挙に関連した外交姿勢(3)トランプ次期アメリカ大統領との会談についての見解(4)トランプ次期大統領を「信頼できる」と判断した根拠と米国のTPP承認の可能性(5)TPPの審議と予算付けに対する認識(6)中国のRCEPに関する認識(7)日米同盟の交渉と安全保障戦略(8)プーチン大統領の訪日と北方領土への主権回復への見解(9)ロシアの北方領土に対する主張とわが国の立場(10)北方領土問題と経済協力のリンク(11) ロシアに対する総理の過去の言動の狙い(12)パリ協定の遅れ――などに関して安倍総理らに質問した。

 質問の冒頭で伊藤議員は、「安倍総理の説明、あるいは政府の情報開示があまりにも不十分なため、国民は漠然とした不安の中にある」と指摘し、トランプ次期大統領との会談を目前にした14日の参院TPP特別委員会で、会談内容に関して「差し支えのない範囲で丁寧に説明する」と答弁し、公務として公費で出張した以上、非公式の会談とはいえ、国民に対して一定の説明をすべきなのに明確な説明がなされていない点を問題視。大統領選挙期間中にヒラリー・クリントン候補と面談したのも同じく非公式であったにも関わらず、詳細に内容を公表した対応と齟齬(そご)があると指摘し、情報開示を求めた。

 また、米国大統領選挙に関連した外交姿勢について、今年9月、選挙投開票日まで2カ月を切る中、安倍総理がクリントン氏のみと面会したことに関して、「勝敗の行方が分からない段階で、一国の総理が片方の候補に肩入れするような行動は、公平性を欠き、選挙後の影響を考えると大いなるリスクであり、今となっては失策としかいいようがない」と断じた。会うのであれば両候補に会うべきで、それが叶わない場合はどちらにも会わないのが儀礼で、今回の行動は軽率な判断だとの味方を示した。

 安倍総理がAPEC首脳会談への往路、ニューヨークに立ち寄り、トランプ次期アメリカ大統領と行った会談については、(1)1月まで任期のあるオバマ大統領に非礼である(2)トランプ次期大統領は、わが国と基本的な価値を共有できるかどうかを先に判断する必要がある――といった慎重な意見が外務省などから相次いだとされる点を取り上げ、それにもかかわらず総理が直接電話で会談を打診し、各国首脳が冷静に動向を注視する中、いち早くかけつけた経過に言及した。

 そのうえで「最もお伺いしたいのは、総理がトランプ次期大統領を『信頼できる』と判断した根拠」だと述べ、その理由をただしたが安倍総理からは明確な答弁は示されなかった。また、特に焦点となっているTPPについてどんなやりとりがされたかを確認したがこの点についても安倍総理は明言をさけたが、この点に関して伊藤議員は「会談のわずか4日後の11月21日にトランプ次期大統領が就任初日に離脱を表明し、代わりに公平な2国間協定の交渉を進める旨を宣言した。これによって安倍総理が成長戦略の切り札としてきた看板政策であるTPP発効の望みは完全に絶たれた」と指摘。「『信頼できる』との判断は、うまく次期大統領に丸め込まれたという評価に変わり、拙速な会談の結果、総理の次期大統領に対する影響力が小さいものであることが世界にさらされた」との見方を示し、他国に先駆けてトランプ次期大統領のもとに駆け付けたがTPPに関して翻意を促せなかった事実を指摘した。

 こうした事態を踏まえて石原TPP担当大臣に対して伊藤議員は、「もはやTPPに関しては、国会審議の意義が根底から崩れ去った状態といえる。国会審議には多額の税金が費やされており、税金で運営されているのであれば、国益に適う、国民が求める最優先事項を審議すべきだと考える」と提起したが、石原大臣はかたくなに審議を継続する意向を示した。伊藤議員はまた、「政府はこれまでにおよそ1兆1900億円もの関連予算を組み、TPP発効に備えてきたが、前提を失った今、全体の計画見直しと関連予算の国庫返納等、納税者が納得する措置が必要かと思われる」とも語った。

 伊藤議員は安倍政権の外交の問題点として、「ロシア交渉の窓口であったウリュカエフ経済発展相の逮捕、イギリスの国民投票、パリ協定、アメリカ大統領選挙の予測、日本の外交の触角は、今どこかおかしいのではないか? 対外情報収集能力に疑問符が付されていると言わざるを得ない。常に想定外の出来事に右往左往して大慌てしている政府の姿は異様に感じる」「パリ協定については、安倍総理が今臨時国会の所信表明演説でも触れないなど、官邸サイドの関心がそもそも低かった事も災いして、COP22での主導権をにらんで手続きを急いだアメリカや中国、EUなどの動きを読み誤った。京都議定書では議論をリードした日本が、パリ協定では蚊帳の外。あまりにも甘い読みに基づき、今国会で、TPPの成立を急ぐあまりパリ協定を後回しにしたツケだといえる。脱炭素社会に向けて世界が動き出す中、協定の第1回締約国会合にオブザーバーとしてしか参加できず、日本は完全に出遅れた」などと列挙。「政府は外交上の失敗についてはこのように枚挙にいとまがない」と断じた。

 質問の最後に伊藤議員は政府に対して積極的な情報公開をあらためて求め、「それが出来ないのであれば、国民の信頼はみるみる失われていくと指摘し、「その際には、民進党が国民との対話を深め、国益に照らした判断を行うのみ。わが党はその覚悟を有する」と表明し、質問を終えた。

PDF「参院本会議「安倍総理帰国報告に対する質疑」原稿」参院本会議「安倍総理帰国報告に対する質疑」原稿

民進党の覚悟を表明する伊藤孝恵議員

民進党の覚悟を表明する伊藤孝恵議員