介護分野の現状と問題点、そして今後の論点について、厚生労働部門で介護分野を担当し、「人の生活を支えることが政治にとって一番重要だ」と語る初鹿明博衆院議員に聞いた。

アベノミクス新3本の矢、3本目の「介護離職ゼロ」の矛盾

初鹿明博(はつしか・あきひろ)衆院議員

初鹿明博(はつしか・あきひろ)衆院議員

 安倍政権の看板政策「アベノミクス」新3本の矢の3本目が介護離職ゼロと言っているが、実際には介護サービスを縮小していく方向にある。

 安倍政権の根底にあるのは「自助自立」。出来るだけ自分でやれということだが、そもそも介護保険制度は、介護を家族の負担から社会化していこうという考えから始まったもの。介護保険の理念を根底から揺るがすような方向に進んでいる。

 しかもそれが、現場で下から積み上げられてきた話ではなく、経済財政諮問会議といった官邸主導の財政的な観点から出されていることは非常に問題だ。

 国のサービスを減らし地方自治体に振ろうとしているが、それは財政的に自治体に押し付けているだけ。住民を目の前にしている自治体からすると、目の前で困っている人がいて、その人たちを無視するわけにはいかない。余力のある自治体は自己財源で何とかするが、財政的に余裕がないところはそれができない。そうなると、地域間格差ができ、日本全国一律の最低限の介護サービスを提供するという介護保険の根本的な思想から大きく離れてしまう。

 例えば、要介護1・2の生活援助サービスを要支援1・2と同じように介護保険給付の対象から外して市町村事業に振り分けようという動きがあり、また福祉用具のレンタルも全額自己負担にしようという話もある。

 要介護1・2の生活援助サービスが介護保険の対象から外れると、今までヘルパーがやってくれてたことを家族でやるしかない。ただ、自分たちがやれないからヘルパーに来てもらっていたわけで、そうなったら離職するしかない。明らかに介護離職ゼロと反対方向のことを検討していたのは非常に問題。一応、当面はやらないということになったが、「当面は」なので、まだまだ油断はできない。

 そもそも要介護1・2を軽度者ということが根本的に間違いで、軽いからサービスの必要がないという間違った印象を与えてしまっている。必要だから要介護であり、必ずしも軽いわけではないということをまず押さえなくてはいけない。特に認知症の人の場合は、身体機能が低下して動けなくなった介護度が高い人もそうだが、身体的には健康でも徘徊してしまう介護度の低い人も大変で、人の目が届く時間を多くしないといけない。

人材の確保が今後の課題

 介護サービスを広げるにしても、それを担う人材の確保が問題になる。在宅介護で言えば、訪問介護のヘルパーが本当に集まらない。

 これは仕事の内容と処遇の問題の両面あると思うが、少なくとも処遇は変えないといけない。待遇を良くして賃金を引き上げない限りは、人はまず集まらない。

 おそらく日本人の中に福祉はある種のボランティアみたいな感覚、安い賃金でも気持ちがある人がやってくれればいいんだという意識があるのだと思う。

 保育士の処遇改善の話の時に、保育士の給料は全産業の平均賃金よりも11万円低いにも関わらず、安倍政権は女性の労働者の平均賃金と比べて4万円低いから、それに合わせるとしていた。つまり保育士は女性の仕事だと思っている。「男女の賃金格差があるのは当然で、女性は賃金が低い。保育士は女性のやることだから、女性の平均に合わせましょう」という発想で、答弁していたのではないか。介護も同じで、介護のような仕事は女性のやることだから、相対的に賃金が低くていいという、そういう考えが今の政権にはあるのではないか。もちろん現状は、同性介護が必要なこともあり、男性も多くなってきている。

 また政府は人手不足を外国人労働者で穴埋めしようとしており、今までEPA(経済連携協定)で来ていた人たちは、施設でしか仕事ができなかったが、訪問まで解禁しようと言い始めている。こういった外国人に頼ろうとしている状況をわが党としてもどうするのか判断していかないといけない。

 介護の一番の肝は、身体介護や食事の提供といったサービス以上にコミュニケーションをとること。そういう面では、言葉がきちんと通じるということが非常に重要。実はそれが介護予防にもつながっている。

介護職員等の処遇改善法案

介護職員等の処遇改善法案

在宅介護か施設介護か、誰がどこで看るか、解決していく必要がある

 地域包括ケアという考え方を厚労省もいち早く打ち出していて、家族だけで支えるのではなく地域で見守るサービスといったものを作ろうとしている。ただこれからは単身でそのまま在宅で暮らし続けるというのは、相当しんどい時代になる。そうなると、このまま在宅介護でいくのか、それとも施設介護にしていくのかという選択が迫られてくる。

 その時に、例えば非正規雇用でずっときて年金もほとんどない状態の人たちが入れるような施設を用意できるかという厳しい問題が生まれる。それを今から意識して準備をしていく必要がある。

 安倍総理は自分たちはいいことをやってきたんだという言い方で、サービス付き高齢者住宅を増やしましたと言う。確かにそれは悪いことではない。ただそこに入れるのは、将来ある程度厚生年金がもらえたり資産のある人たち。そこからあふれた人たちが、これから大量に出てくることが予測できるのに、それに対しての対応を今は全くしていない。施設に入れないから在宅で暮らさざるを得ないのに、在宅サービスを縮小するという。これでは、こういった人たちを完全に見捨てることになってしまう。

 私見だが、住まいのあり方を見直して、グループホームまで行かなくても、介護の必要な人もいれば、そうではない単に低所得者の人もいるといったような共同生活ができるシェアハウスのような形で、そこに支援する人を配置する支援付き住宅みたいなものを作っていかないと、これからの高齢者の生活を支えるのは難しいのではないか。

 わが国の最大の課題は、これから30年経った時に、年金が少ない、所得・資産もない人たちの介護を、誰がどこで見るのかということだ。そのことを今から準備して解決していく必要がある。

社会保障は、トータルでどうしていくかを考えることが重要

 社会保障はそれぞれ個別に考えても仕方がない。例えば年金の問題は、生活保護や雇用の問題に関わってくる。ところが安倍政権は出てきた現象に一つずつ対応していて、全体としてどうするかというのが、なかなか見えない。

 政府は今、年金を下げる法案を出しているが、年金を下げても、生活保護になだれ込む人が多ければ、結局掛かるお金は増えることにもなりかねない。

 介護保険も同様に、安易にサービスを打ち切ってしまうと、余計お金がかかることに気づかなくてはいけない。医療でも介護でもそうだが、軽いうちに手を打っておくのが非常に重要だ。

 介護の人材問題にしても、配偶者控除や働き方と関係している。医療との関係や、住まいをどうするのかという住宅政策にもつながっていく。それをトータルでどうしていくか、わが党としてビジョンを示していくことが大切だ。

 現在、厚労部門でも介護分野について政策アップグレードの検討作業を行っている。

(民進プレス改題16号 2016年11月18日より)

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