PDF「充実と重点化・効率化の同時実施」充実と重点化・効率化の同時実施


 なぜ、社会保障と税の一体改革が必要だったのか。これまでの経緯を振り返り、残された課題等をまとめた(関連記事1「保育・待機児童問題」「年金問題・GPIF」関連記事記事2「介護問題」関連記事3「医療」参照)。

 日本は国民皆保険、国民皆年金など、他の先進諸国と比べて遜色のない社会保障制度を築いてきたが、現在、社会保障制度に多大な影響を与える人口構造に大きな変化が生じている。半世紀前には65歳以上のお年寄り1人を9人の現役世代で支える「胴上げ」型の社会であったが、少子高齢化により、近年では3人弱で1人を支える「騎馬戦」型となり、2050年には高齢者1人を1・2人の現役世代が支える「肩車」型の社会となることが見込まれている。
 こうした状況にあっても社会保障を持続可能なものにしていくためには、給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心という現行制度を見直し、給付・負担両面で人口構成の変化に対応した制度へ改革していく必要がある。
 そのため、民主党政権は給付面で子ども・子育て支援などを中心に未来への投資という性格を強め、全世代対応型の制度とするとともに、幅広い世代の国民が負担する消費税の税率を引き上げる「社会保障と税の一体改革」を行った。

民主党政権下で実現した主な改革と残された課題 

 民主党政権では、2012年2月に「社会保障・税一体改革大綱」(以下「大綱」という)を閣議決定するとともに、民主・自民・公明の3党での合意に基づいて社会保障制度改革関連法を制定し、改革の実現に取り組んだ。

●年金

 民主党政権では、(1)基礎年金国庫負担割合2分の1の恒久化(2)年金生活者支援給付金の創設(3)受給資格期間の25年から10年への短縮(4)被用者年金一元化(5)短時間労働者への社会保険適用拡大(対象約25万人)(6)年金給付特例水準の解消(7)厚生年金の産休期間中保険料免除⑧遺族基礎年金給付対象に父子家庭を追加する――などの法改正を行った。

 しかしこの改革はまだ第1段階でしかない。新しい年金制度の創設について、大綱では国民的な合意に向けた議論や環境整備を進め、引き続き取り組むべき課題と位置づけた。

●子ども・子育て支援

 民主党政権では、子ども・子育て新システム関連3法を制定し、「子ども・子育て新システム」(現在の名称は「子ども・子育て支援新制度」)を創設した。これは、すべての子どもに良質な成育環境を保障し、子どもと子育て家庭を社会が支える仕組みの実現に向け、地域の実情に応じた保育等の量的拡充、幼保一体化などの機能強化を行うためのものである。

 あわせて、消費税の使い道を子育て支援に拡大し、税率引き上げ分の0・7兆円を子育て支援予算として確保することに道筋をつけ、0・4兆円を待機児童解消のための保育等の量の拡充、0・3兆円を職員配置基準の改善をはじめとする保育等の質の改善に充てる方針を打ち出した。さらに0・3兆円超を確保する方針を打ち出したが、現在に至っても財源確保のめどがたっていない。

●介護/医療

 民主党政権では、介護が必要になっても住みなれた地域で生活できるようにすることを目指し、24時間対応の定期巡回・随時対応型訪問サービスを創設するとともに、ヘルパーなどの人材確保につながるよう、2012年度の改定で介護報酬を1・2%引き上げた。また、消費税率の引き上げとともに介護1号保険料の低所得者軽減を強化する方針を打ち出した。

 医療では、2回連続で診療報酬を引き上げたこともあり、医療崩壊を食い止めることができた。また、難病患者の医療費助成について、公平・安定的な支援の仕組みを構築する方針を打ち出したが、一方で、後期高齢者医療制度の廃止については、大綱で法案提出の方針を示したものの、法案提出には至らなかった。

変容した「社会保障と税の一体改革」

 「社会保障と税の一体改革」は3党合意に基づくものであり、自公政権でも改革の方針は踏襲されるべきものである。しかし、安倍政権では本来の姿から変容しつつある。

●社会保障制度の抜本改革を先送り

 2012年に3党で成立させた社会保障制度改革推進法には、社会保障制度改革を行うための法制上の措置を講じることが規定されており、民主党政権では公的年金制度や高齢者医療制度を抜本的に改革する具体的な法案の提出を意図していた。にもかかわらず、安倍政権が同法に基づいて制定した「社会保障制度改革プログラム法」は、年金制度や高齢者医療制度の抜本改革を含んでいなかった。その後も、安倍政権は抜本改革の議論を避け続けている。

●社会保障の充実の取り止めと先送り

 民主党政権は大綱で、社会保障の充実の主要政策として、制度単位ではなく家計全体をトータルに捉え、医療・介護・保育等に関する自己負担の合計額に上限を設定する、総合合算制度を創設する方針を掲げた。しかし、安倍政権は高所得者優遇の消費税の軽減税率を導入する財源を捻出するため、総合合算制度の創設を取り止めた。
 また安倍政権が、アベノミクスの失敗により消費税率10%への引き上げを2019年10月に延期したことにより、社会保障の充実も先送りされることが懸念されている。
 民進党が、「約束していた社会保障の充実は消費税引き上げを待たずに予定通り実施すべきである」と強く主張したことにより、年金の受給資格期間の短縮は前倒し実施されることになった。しかし、年金生活者支援給付金(年間最大6万円増)や介護保険料の低所得者軽減の前倒し実施については、全くめどは立っていない。

民進党が果たすべき役割

 「社会保障と税の一体改革」は道半ばであり、実現までに解決すべき課題は多い。こうした状況の中、民進党は「持続可能な社会保障制度の確立、生涯を通じた学びの機会の保障など人への投資によって、人々の能力の発揮を阻んでいる格差を是正する」ことを綱領に掲げて結党した。

 民進党は「社会保障と税の一体改革」が当初の理念や方針どおり実行されるよう、さらなる改革を目指して取り組んでいく。


(民進プレス改題16号 2016年11月18日より)

民進プレス電子版のお知らせ: