参院予算委員会で9日、2017年度政府予算に関する中央公聴会が開かれ、「経済・財政・社会保障」に関して常葉大学副学長の稲葉光彦、慶應義塾大学経済学部教授の井手栄策、横浜国立大学名誉教授の萩原伸次郎各公述人から意見を聴取。意見陳述を踏まえ宮沢由佳議員は、自身も長年保育や子育て支援に取り組んできた立場から、生活保護や子どもの貧困問題などについてそれぞれの見解を尋ねた。

 稲葉後述人は、保育士の離職率が高い原因として、給料が他職種に比べ安いことと、キャリアアップの仕組みが不十分であることを指摘。保育士の処遇改善や保育の質の確保、量的拡充、多様なサービスの充実が求められているとして、「待機児童解消のための施策は重要だがそれがゴールではない。保育の質の確保が必要条件」「子どもの健やかな育成に社会全体で取り組むことが必要」などと述べた。

 井手公述人は、日本社会が閉塞感を感じているのは、先進国の中でも現役世代に対する支出、社会給付が極めて低いこと、中間層が低所得層化しているにもかかわらず現役世代は就労し支出し、貯蓄し老後の安心を得なければいけないという自己責任社会となっていることではないかと提起。「一部の人を受益者をすると中間層や富裕層が反発する」と述べ、「誰かの利益ではなく私たちの利益という領域を増やすべき」「(8%から10%への)消費増税2%の半分は財政再建、半分は貧困対策になっているが、これを組み換え、それなりの割合を中間層の生活、『不安の平準化』のために使うことで増税への抵抗感を弱める。あらゆる人が痛みを分かち合い社会に対して貯金を行うことで、将来の不安の平準化につながる。格差是正、経済成長、財政再建が目的から結果に変わる」などと説いた。

 萩原公述人は、「経済再生と財政再建は道半ば」という状況が続いていることに、「アベノミクスは富裕層を重視した経済政策で、中間層を重視したものになっていない」と指摘。「最低賃金を全国一律千円にするという課題を、零細中小企業に援助していく形で行っていくことで日本の経済の底上げが可能だと考える。中間層を重視した政策に大きく転換する時期に来ていてるのではないか」と表明した。

 宮沢由佳議員は、神奈川県小田原市の生活保護担当職員が「保護なめんな」という文言をプリントしたジャンパーを着ていた問題に言及。生活保護をめぐっては、実際に生活に困窮し制度を頼らざるを得ない人たちがいる一方、納税者らからは不正受給を疑う声が強くあることから、その間に立つ現場担当者のつらい立場に理解を示したうえで、こうした状況を改めるにはどのような政策が必要かを尋ねた。

 井手公述人は、「特定な人を受益者にしてしまう仕組みは疑心暗鬼、過剰な攻撃を生んでしまうのではないか。すべての人々の暮らしを保障する中で特定の人をバッシングしなくていい状況をつくることが大事だと思う」「例えば、日本では生活保護の受給権があるにもかかわらず受給は2割、障害者の発生率の数字は先進国のなかで異常に低い。ニーズに対し受給するべきだ。300万円以下の世帯が3割であるのに、9割の人が自分は中間層だと答える。貧困だったとしても『もっと大変な人がいるから自分は貧困ではない』と言い聞かせる人が、耐える人がいるのなら、障害であれ貧困であれみんなが恥ずかしい思いをすることなく堂々と受益者になれる制度をつくればいい」などと述べた。

中央公聴会で公述人への質問に立つ宮沢由佳議員

中央公聴会で公述人への質問に立つ宮沢由佳議員