参院本会議で29日、給付型奨学金制度を創設するために政府が提出した「独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案」の趣旨説明・質疑が行われ、民進党・新緑風会の斎藤嘉隆議員が質問に立ち、(1)給付対象の拡大(2)すでに奨学金貸与を受けている学生への対応――等について松野文科大臣の見解を求めた。

 大学生の奨学金利用をめぐる最近の状況について斎藤議員は、20年前に20%だったものが、今では半数以上の大学生が何らかの奨学金を受けるようになったと指摘し、その理由が「国立大学も含め大学授業料が急激に値上がりしたことと、親の所得が大幅に減少したことにある」と説明。その背景については「相次ぐ規制改革により、正社員が減少し、非正規雇用者が増え、年功序列型賃金の体系も大きく崩れ、子どもの学費を工面できない家庭が増え、その分が奨学金貸与者増につながっている」と分析した。

 このような社会情勢の中、政府が給付型奨学金の創設にかじを切ったことについては「率直に評価したい」としながらも、法案の内容に対して「支給対象者や支給額が絞り込まれ、規模的にお粗末なものと言わざるを得ない。これではただ制度として給付型奨学金を導入したという実績づくりにしかならず、学費等の高騰に悩む多くの学生たちや、進学を断念せざるを得ない若者たちの生活実態を反映したものとは言えない」と問題点を指摘した。

 本制度が本格実施となる2018年度以降の給付型奨学金の対象者が約2万人であることについて、制度の対象である児童養護施設退所者・里親家庭出身者の約2千人、生活保護世帯1万5千人、住民税非課税世帯14万2千人の合計で15万9千人、そのうち大学進学者が推計で6.1万人であることから、2万人の対象者では同じ境遇でも給付を受けられる学生とそうでない学生とに二分されると問題視。松野文科相に対して「2万人への給付を、早い段階で6万人規模に拡充することが必要ではないか」と説いた。

 それに対して松野文科相は「給付型奨学金は、貸与型の奨学金以上に説明責任が求められることから、支給するのにふさわしい学生を対象にするという観点から無利子奨学金よりも高い学力、資質基準を課すこととし、1学年2万人を対象としている」と答弁し、学ぶ若者に対して世界一冷淡な先進国と称される日本の教育制度の現状を打開するような強い意思を示さなかった。

 また、今回の法改正による奨学金給付が新たに進学する学生のみが対象であることから、すでに奨学金の貸与を受けている学生や返還中の者にとってのメリットがない問題を取り上げた。「今、貸与を受けている学生も、大きな借金を背負う自らの将来に大きな不安を覚えていることに変わりはない。すでに貸与を受けている、あるいは返還中である者に対して、有利子から無利子へ、あるいは貸与から給付への転換、猶予期限の延長などの具体的な手だてを講じる考えはないのか」と文部科学大臣にただした。

 松野大臣は「奨学金の返還については、まずは2014年度に猶予制限年数を10年にしたことの効果や来年度から導入する所得連動返還型奨学金制度の効果、さらには減額返還制度を拡充することの効果等を十分に把握、検証していきたい」等と答弁するにとどまった。

 最後に斎藤議員は、「子どもたちは自ら生まれ育つ環境を選ぶことはできない。経済格差による教育格差の拡大を危惧する声が大きくなっている。どのような環境にあろうとも意思あれば道が通ずる状況を提供することは、大人の、そして政治の責務である。就学前教育や高等教育の無償化、その負担軽減などを通して、すべての子どもたちがフェアな環境の中でチャンスを与えられる社会を創ることが日本の目指すべき道だ」と表明した。

PDF「参院本会議斎藤嘉隆議員日本学生支援機構法改正案質問(予定稿)」参院本会議斎藤嘉隆議員日本学生支援機構法改正案質問(予定稿)

斉藤嘉隆議員

斉藤嘉隆議員