衆院本会議で11日午後、政府提出の「農業競争力強化支援法案」の採決が行われ、与党などの賛成多数で可決した。採決に先立ち小山展弘議員が反対の立場から討論を行った。

 農業競争力強化支援法案について小山議員は、「当初、TPPへの中長期対策として検討されたもの。そのTPPは破たんした。本来、前提条件から考え直し、顔を洗って出直すべきだったはずだ」と厳しい口調で、政府の対応を非難した。そのうえで法案が農業者に「有利な条件を提示する農業生産関連事業者との取引を通じて、農業経営の改善に取り組む」という努力義務を課している点について、「これほど農家をばかにした規定はない」と指摘。多くの人がチラシなどを見比べて1円でも安く買おうとするなか、「農家だけが、主体的合理的な購入ができず、価値に見合わない資材を高く購入しているとでも言うのか。赤字でも債務超過でもない企業に政府が支援する仕組みを農家のために作るのだから農家は経営改善の努力をせよという理屈だが、これは関連事業者にとっても農家にとってもおせっかい以外の何物でもない。まさに上からの上からによる上から目線の改悪と言わざるを得ない。そして、本来の大目的であるべき農家の所得控除は全くおざなりだ」と指摘した。

 「そもそも、本法案は、農協系統組織の経営に介入するために作られたのではないか」との見方も示した小山議員は、「政府並びに規制改革推進会議は、本法案の根拠となる農業競争力強化プログラムを策定し、全農の購買・販売事業、会長や理事長をはじめとする人事や組織体制にまで口を出し、数値目標や計画の策定を半ば強制的に求め、そのフォローアップまで行うとしている」と問題視。債務超過も繰越欠損もなく、政府の出資や特別融資も受けてもいない民間出資100%の健全な事業体である全農や系統組織に、ここまでの過剰な行政指導や介入することについて「極めて異常であり、憲法22条に違反しているおそれがある」と指摘。昨年末に世界文化遺産にも登録された「協同組合」の価値や原則を踏みにじるもので断じて容認できないとして、政府や規制改革推進会議の暴走に、強く抗議し、猛省を求めた。そのうえ本法案第5条で「農業者団体の努力義務」を定め、付則で調査と施策検討の年限を規定していることについて、「この条文を根拠に、政府が農協系統や他の民間団体にさらなる介入を行うお墨付きを与えるとの疑念は強まるもので、容認できない」とも語った。

 小山議員は下記の問題点も列挙したうえで、「昨年の農協法変更、本法案、農業競争力強化プログラムなどの一連の農協系統組織に対する異常な介入は、かつて小泉純一郎首相がうそぶいた『郵政のあとは農協』という新自由主義的な路線の延長線上にあると思わざるを得ない。しかし、郵政民営化しなければ夜も明けないという喧噪(けんそう)から覚め来れば、郵政民営化とは、組織の外形だけ変え、郵政事業に携わる皆さまの誇りと思いを踏みにじり、国会に混乱を招いただけだったのではないか。この愚を再び繰り返してはならない。民間の特定の事業体をいけにえにして、農協系統をいけにえにして、自らへの支持を高めようとする劇場型政治はもうやめるべき」とし指摘。また、「今、世界中で、そして日本国内で、いけにえづくりの劇場型政治、ポピュリズムが横行している。しかし、そこからは憎しみと分断しか生まれない。私たちは、憎しみと分断ではなく、違いを認め合いつつ合意形成を図る政治、現場の声をしっかりと聴く姿勢を持った調和の政治こそ求めていくべきである」と提案し、法案への反対を表明した。

  •  本法案第8条4号で「独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進する」との規定があるが、これまで税金を使って重ねてきた日本の優れた種子研究の知見を、国内民間企業はおろか外資にまで公表することは、主権の放棄にも等しい暴挙。加えて、日本農産品の競争力の低下を招きかねず、国民に対する背信行為以外何者でもない。
  •  本法案では、農業生産関連事業分野に対する事業再編や新規参入に支援措置を講じるとしているが、そもそも農業生産関連事業の分野に参入障壁などあったのか。国は、既存の農機メーカーが行う新規事業には一切支援しない一方で、異業種の超大手企業や、かつて農機業界から撤退した企業には支援し、有利な条件で農機市場に参入することを促しているが、これは適切な市場競争を歪めることに他ならない。加えて国からの支援に名乗りを上げる企業が、総理周辺の「お友達企業」「お友達経営者」であるならば、一連の法改正は特定の企業に利益を誘導するものではないか。農村人口の急速な減少や高齢化への対応こそ喫緊の課題。農機について言えば、人口知能を取り込んだ無人化や自動化などの高度な農機の開発こそ求められている。本法案によって農機メーカーが弱体化すれば、民間による日本農業に適した農機の研究開発余力が奪われることにもなりかねない。
  •  政府は肥料銘柄数が多いことを問題にしているが、銘柄数削減によるコスト削減効果は固定費の範囲内という見方が大半。却って銘柄削減の取り組みが、農家のニーズに応えようとする関連事業者の努力を抑制し、真に必要とされる「価格に見合った農業資材」が農家の手元に届かなくなり、日本の農産品の品質低下を招きかねない。
  • PDF「衆院本会議 農業競争力強化支援法案 小山展弘議員反対討論最終稿」衆院本会議 農業競争力強化支援法案 小山展弘議員反対討論最終稿