衆院で30日、政府提出の「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案」と民進党など野党6党提出の「子どもの生活底上げ法案」(生活保護法等の一部を改正する法律案)の本会議での趣旨説明と質疑が行われ、民進党会派である無所属の会の金子恵美議員が質問に立った。

 冒頭、財務省による森友学園への国有地払下げに関する公文書改ざん問題をめぐる佐川前国税庁長官の証人喚問について、「疑惑はさらに深まった」と印象を語り、「いったい誰が、なんの目的でこのような前代未聞の公文書改ざんを行ったのか、真実が明らかにされなければ、行政だけでなく国会に対しての信頼を回復することはできず、民主主義が崩壊してしまう」と指摘し、野党は一致結束して引き続き真実解明に取り組んでいく考えを語った。

 生活困窮者自立支援法改正案については、そもそも、民主党政権で検討した「生活支援戦略」を踏襲したもので、生活保護受給に至っていないものの、生活に困っている人へのセーフティネットとして一定の役割を果たしているとの見方を示したうえで、同法の制定により自治体でさまざまな支援事業が展開されることになったが、多くは自治体の任意事業にとどまり、実施率は上昇してはいるものの、2割から5割台にとどまっている点への懸念を表明した。特に子どもの学習支援事業は、貧困の連鎖を断ち切るために必要不可欠だとして、政府提出法案にある学習支援事業の強化だけでなく、自治体に支援策を講じることを前提に必須事業にすべきだと指摘した。

 同改正案中、自治体の各部局で生活困窮者を把握した場合に、自立相談支援事業等の利用勧奨を行うことを努力義務化することが盛り込まれている点は、民主党政権で検討した「生活支援戦略」の方向性に沿った改正だとの評価する一方、「人材を確保しないまま利用勧奨を行って支援対象者が増えれば、支援が滞ってしまうおそれがある」と指摘し、支援事業を担う人材確保策を厚生労働大臣にただした。  

 加藤大臣は「都道府県による市町村の相談員に対する研修の実施等に関する事業を法定化したうえで、その費用に対する補助の仕組みを設けることとしている」「相談員の配置を含む相談支援の態勢づくりについては支援実績の高い自治体を補助に当たって適切に評価するとともに、人員配置の状況を全国との比較で客観的に把握できる仕組みを設けることにより人員配置の手薄い自治体の底上げを促すこととしている」と答弁した。

 金子議員は、大学進学率が全世帯で約73%となる一方、生活保護世帯では約33%と著しく低水準にとどまっている点を問題視し、政府提出法案に盛り込まれた生活保護世帯の子どもが大学等に進学した際の一時金支給でどのぐらいの進学向上につながるのかを安倍総理にただした。

 安倍総理は、生活保護世帯の子どもについて、大学等への進学準備の一時金として自宅からの通学者には10万円、自宅外通学者には30万円の給付を創設、合わせて2018年度予算では自宅から大学等に通学する場合に行っていた住宅扶助費の減額を取りやめることとした旨を答弁。「昨年12月に取りまとめた新しい経済政策パッケージにおいて生活保護世帯を含めた所得が低い家庭の子どもたちの高等教育の無償化を実現することとしている。進学率について具体的な試算を行っているわけではないが、これらの施策が相まって進学率の向上を目指していきたいと思っている」などと述べた。

 次に、児童扶養手当法の改正についても質問。2016年の児童扶養手当法改正の際、野党が児童扶養手当の毎月支払を議員立法で提案し政府・与党に求めたことに言及し、児童扶養手当の支払回数の増加について、当時の塩崎厚生労働大臣が「自治体における円滑な支給事務の実施体制の確保との関係で難しい」と答弁したことを取り上げた。今回、政府が年3回の支払を6回に増やすと法案に盛り込んだことについて、毎月の決まった支払いに対応する家計管理の観点から、児童扶養手当を毎月支払にすることが必要だと金子議員は指摘した。

 また、2016年の法改正の際、野党が第2子以降の多子加算の一律1万円引き上げを議員立法で提案したことにふれ、「その時の政府提出法案によって第2子は1万円に引き上げられたものの、第3子以降は引き上げが小幅で6千円にとどまった。法改正の際、児童扶養手当の加算額を含む支給額の在り方を検討し、検討結果に基づき適切な措置を講ずるとの付帯決議が付されている、今回の政府提出法案に多子加算の引き上げは盛り込まれていない」と問題視した。

 野党提出法案に関しては(1)多子加算を引き上げるのではなく、児童扶養手当本体を1万円引き上げることとしている点、(2)2016年に野党が提出した議員立法では、20歳未満まで対象を拡大するものの、対象を学生等に限定していたが、今回の野党案では学生等に限定せずに20歳未満まで拡大することとしている点について理由を尋ねた。 

 野党法案提出者である希望の党の白石洋一議員は、(1)について「貧困対策推進法が成立してから5年が経過したが残念ながら子どもの貧困の状況は依然深刻。なかでも1人親家庭の子どもたちの生活底上げは最優先課題。児童扶養手当の支給額については平成28(2016)年8月分から多子加算が増額されたものの、子どもの貧困の状況に鑑みれば第1子についても増額することが必要と考える。そこで本法案は児童手当の支給額を1世帯あたりで最大で月額1万円引き上げ、1人親家庭の子どもの生活の底上げを図ることとした」と説明した。

 (2)については、「貧困家庭のなかには高校卒業後も受験浪人生活で困窮したり、経済状況が浪人することを許さないために進学を断念し、就職を希望しても十分な収入が得られる安定した職に就けずに苦しむ子どもたちが多くいる。これらの子どもたちは学生ではないが支える必要がある。そこで支給対象を学生に限定せずに20歳未満の者に拡大することとし、貧困家庭の子どもの生活底上げを確たるものとした」と答弁した。

 金子議員は「国民生活を向上させるため、親から子に引き継がれる貧困の連鎖を断ち切るための対策やセーフティネットの拡充に引き続き全力で取り組んでいく」と宣言し、質問を終えた。

PDF「衆院本会議生活困窮者自立支援法等改正案、子どもの生活底上げ法案金子恵美議員質問予定稿」衆院本会議生活困窮者自立支援法等改正案、子どもの生活底上げ法案金子恵美議員質問予定稿