衆院本会議で16日、「原子力の平和利用における協力のための日本国政府とインド共和国政府との間の協定の承認を求める件」(日印原子力協定)の質疑が行われ、与党の賛成多数で承認された。採決に先立ち、民進党の小熊慎司議員が反対討論を行った。

 小熊議員は冒頭、「昨年開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、NPT体制の弱体化に大きな警戒感が示された。その最大の要因は、核兵器国が約束した核兵器削減計画が進んでいないこと、また、核兵器保有国が実際どのくらい核弾頭を保有しているかも不明で、それに対し非核兵器国から大きな不満が出たためだ」と説明した。そうした中で、核兵器国を主要なメンバーとする「原子力供給国グループ」(NSG)が2008年9月、インドにNPT未加盟のまま核関連物質・技術の輸入を例外的に認めてインドが査察対象とならない軍事用の核施設を合法的に持ち得たこと、さらには、民生用原発の核燃料の確保が保証されることで国内のウラン資源を軍事用に回すことが可能になったとも説明し、この点について「いくら強弁しても、NPT体制を強化するものであると言えるはずがない」と断じた。そのうえで、「NPT条約上の非核兵器国である日本までもが、インドとの原子力協定を『国際的な核不散体制に、インドを実質的に参加せることにつながっていく』と述べて、NPT体制をまるで強化するかのように主張し、インドに原発やその関連技術・部材を輸出しようとしていることは、NPTの信頼性を傷つける以外の何ものでない」と指摘し、以下の問題点等を列挙した。

  • 原子力協定とは、そもそも、原子炉などの輸出を解禁する一方、その関連技術や核物質を核兵器に転用しないことを確認する保障措置の受け入れを相手国に義務づける2国間協定を指す国際法上の用語であるにもかかわらず、インドは、2008年9月のムケルジー外相声明で「核実験のモラトリアム(一時停止)の継続、軍民分離の実施、厳格な輸出管理措置を含む約束と行動」をうたっているが、協定本文に「2008年9月の外相声明に違反した場合に協力を停止する」との内容は盛り込まれていない。
  • 委員会質疑で政府は「核実験モラトリアム」のみを強調し、核爆発を伴わない未臨界実験については、すべてが把握できないことが明らかとなった。
  • 2014年インドの下院総選挙でモディー現政権のインド人民党が示した党選挙マニフェストに「核政策見直し」のなかに「核先制不使用」政策の転換が含まれており、インドが将来「核先制不使用」政策を転換する可能性は、現実的問題であること。
  • インドの原子力損害賠償責任法(2010年成立)では、万一の事故の際、発電事業者だけでなく、原子炉などの設備を納入した企業にも事故の責任を負わせる仕組みとなっているため、米国とインドは2015年1月に事故時の損害賠償はインド側がつくる保険制度で賠償することで合意している。もしインドとの合意なく日本が一方的に協力を停止した場合、事故の場合よりももっと、インド側が日本の責任を追及する可能性が高い。
小熊議員

 小熊議員は「民進党は、東京電力福島第1原発事故を教訓にして、あらゆる資源を投入して2030年代に原発ゼロを目指すと公約した。そのためには、省エネ技術を押しし進めるととともに、再生可能エネルギーを最大限活用する必要がある。わが国のエネルギー体系を、現在の大規模発電設備を中核に据えた集約型から、エネルギーの地産地消を基本とした地方分散型に大胆に変換する必要がある」と問題提起し、日本は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現のために包括的核実験禁止条約の締結に尽力するなど、核軍縮を積極的に推進するとともに、技術的にはほとんど重複する核の平和利用についても、脱原発をテコとしてできる限り縮小していくことが国際的使命だと表明した。

PDF「衆院本会議小熊慎司議員日印原子力協定反対討論予定稿」衆院本会議小熊慎司議員日印原子力協定反対討論予定稿