16日の衆院予算委員会の一般質疑で長島昭久議員が質問に立ち、輸送力強化のために海上自衛隊が導入した予備自衛官補制度に関し、戦地に赴かされるのではないかと民間船員の間に懸念が広がっている問題について中谷防衛大臣らの認識をただした。

 自衛隊での勤務経験を要件としていた予備自衛官制度に加えて、自衛官未経験者を予備自衛官補として採用し、所要の教育訓練を経た後、予備自衛官として任用する制度を海上自衛隊が導入した問題について長島議員は「自衛隊の海上輸送力の不足を民間の力で補うという発想で作られた制度。1年半前から訓練のために2隻の民間フェリーを使って兵員、資材物資の輸送を行っているが、有事になるとこのフェリーが自衛隊の輸送船へと装いが変わり、戦地に赴くことになるのではないかと、民間船員の間で危惧(きぐ)の声が上がっている」と指摘し、この問題について中谷防衛大臣に認識をただしたが、「有事には民間船員を使わずに自衛官でフェリーを運行する」と答弁した。

 長島議員は、フェリーの運行には20人程度の海技士の資格を持つ船員が必要だが、海技士資格を持った予備自衛官が8人しかいない事実を指摘。「今、有事が起こった場合、予備自衛官だけでは1隻のフェリーも運行できない。こういう事実があるから民間船員の方々は、(有事の輸送に)駆り出されるのではないかと不安に思っている」と述べ、「有事にフェリーを操船できる人員を自衛官でまかなえるのか」と追及した。中谷防衛大臣は海技士資格を持つ予備自衛官が増えれば可能であると根拠のない答弁しかできなかった。

長島議員の質疑

 長島議員は、民間船員が予備自衛官補制度の導入について強い不安を抱いている背景として、先の大戦でのトラウマがあるとも指摘した。「国家総動員法などに基づいて多くの民間船が国に徴用、十分な護衛も無いまま2500隻が撃沈され、船員の犠牲者は6万人余、死亡率は43%に上り、陸軍の20%、海軍の18%を大きく上回った。また、徴兵制と異なり、14、15歳で徴用された少年船員もいて、17歳以下の死者が約1万人と言われている」と指摘。この歴史的事実から民間船員らが会社側から半ば強制的に予備自衛官補になるよう仕向けられることを懸念している問題に対して石井国交大臣がどのように監督していくのかをただした。石井国交大臣は、「予備自衛官を希望しないで本事業船舶の船員となった者については、その希望を尊重し予備自衛官に採用しないと入札の公告に明記してある」と答弁した。

 「自衛隊の能力の不足をそもそも民間で補うという発想がいかがなものかと思う。民主党政権時にも輸送力の問題は深刻であると受け止められていた。まずは自衛隊の独力をもって補っていくのが筋だ」と長島議員は説き、そのための方策として自衛官に認められた海技士取得の要件緩和措置によって、過去5年で135人の海上自衛官が海技士資格を取得した事実を踏まえ、「民間船舶を操船できる現職自衛官と予備自衛官を組み合わせて、有事でも所要の民間船舶を運行できる人員を確保できる仕組みを作り上げていけば、民間船員の不安を払拭できる。その努力をすべきだ」と提案した。