衆院予算委員会で24日、2016年度政府予算に関する中央公聴会が開かれ、午後からは民主党推薦の公述人として弁護士の郷原信郎氏が、あっせん利得処罰法の罰則適用の範囲と国の予算執行の関係を踏まえた、甘利前大臣の金銭授受問題の事実解明の必要性などについて、意見を述べた。
 郷原氏は、いわゆる「政治とカネ」の問題には、「賄賂系」「政治資金の公開系」「寄付制限系」の3つの類型があるとしたうえで、そのうち後者2つがが政治資金処理の手続き上の問題であるのに対し、賄賂系は国会議員などの政治的公務員の職務の信頼性に関わるため、「真相を解明した上で厳正な処罰が行われる必要がある」と見解を述べた。
 その上で、政治上の賄賂に適用される重要な罰則規定である「あっせん利得処罰法」が2000年に公明党が中心となって議員立法で成立した経緯を紹介し、その法律の構成を解説。
意見を陳述する郷原氏
 郷原氏は、国会議員などによる予算策定段階での行政庁への働きかけなどは「基本的に政策実現を目的として行われるもので、政治活動の自由を保障される必要性が高い」として同法の適用外とされているのに対し、予算執行段階での行政庁と事業者等との契約については、「法令上の手続きに基づいて適正かつ公平に行われるべきであり、政治家などがそこに介入することは正当な政治活動とは言い難く、そこであっせんし、利得を得る行為は行政処分への介入と並んで口利きによる弊害が大きい」と指摘。さらにあっせんが処罰の対象とされるケースとして「権限に基づく影響力を行使して行われ、報酬を受けた場合」があるとし、立法時に中心的な役割を果たした公明党の漆原良夫議員による解説書を引用し「『影響力を行使して』とは、被あっせん公務員の判断に影響を与えるような形で、被あっせん公務員に影響する権限の行使・不行使に、明示的または黙示的に示すことだ」と紹介。特に、国会議員の場合は与党内で影響力を持つ有力議員であることは、この影響力の大きさの要素といえると指摘した。
 このように、「あっせん利得処罰法」が、政治活動を不当に萎縮させないよう配慮しつつ、行政庁等に不当な影響を及ぼし、依頼者の個人的利益を図ろうとする、目的が顕著な悪質な口利きで利得を得る行為のみを処罰の対象としており、この法律施行後に同法の罰則が適用された例がないとした郷原氏は、今回の甘利氏の事案については「絵に描いたようなあっせん利得であり、検察が捜査を躊躇する理由はない」「ストライクゾーンが狭く設定されたあっせん利得処罰法の処罰の対象の、まさにど真ん中のストライクに近い事案だ」と断じた。
 その上で郷原氏は、「この問題が、大臣辞任だけでなんら真相解明されず、うやむやにされるとすれば、国会議員の政治活動への倫理観の弛緩(しかん)を招きかねない」し、「議員立法によってあっせん利得処罰法が制定されたことの意味も全くなくなってしまう」「検察当局が捜査にすら着手しないのであれば、国会が自ら事実解明に乗り出す以外に方法はない」として、甘利氏や秘書の証人喚問や参考人招致により事実解明を行うことが国会の責務だと主張した。
 また郷原氏は、「コンプライアンスは法令遵守ではなく組織が社会の要請に応えることだ」という持論から、「住のセーフティネットの確保を担うURは、財政投融資による12兆円もの資産を有する巨大な公益法人だ。こんな薄汚い口利きで介入されるようでは、その社会的な要請に応えられるのか。こういう歪んだ関係のもとでいったい何が起きたのか、早急に解明した上で、URのあり方を前向きに、建設的に議論していくべきだ」と述べ、その大前提が今回の甘利氏問題の事実解明だと、その必要性を再度強調して意見の陳述を終えた。