昨年、安保法制に対して立ち上がり、国会前で声を上げる若者の姿が国民の関心を集めた学生団体「シールズ(SEALDs)」。これからの若者の政治参加について、創設メンバーである奥田愛基氏と岡田克也代表が語り合った。

政治にまったく関心のない人はいない。声を上げる方法を示した「シールズ」


【対談】政治に新しいムーブメント、若者の声を力に 岡田克也代表×「シールズ」メンバー奥田 愛基氏

国会内の民進党役員室で対談

 岡田 活動のきっかけは何だったのですか。

 奥田 東日本大震災が起きたことで、政治や社会のことを考えずにはいられなくなったんです。高校を卒業する時で、すぐにボランティアとして東北に行きました。原発事故も起こって、この国はどうなるのかと思う一方、エネルギー問題を再考する空気も生まれ、僕たちの手で未来を変えられるんじゃないかという期待感もありました。原発デモの時には賛成・反対ではなく「とりあえず見に行こう」と学生百人くらいで足を運びました。しかしその後の選挙で政権交代が起こり、与野党のバランスが大きく崩れ、せっかく変わりそうだと思った社会がまた元の方向へ向かい始めた。もう「皆で考えよう」じゃだめだ、「言わなきゃいけない」と思ったんです。なので、特定秘密保護法のデモには「自分の意志」で参加しました。

 岡田 シールズを立ち上げたタイミングは?
 奥田 昨年5月3日です。昔の学生運動のような規模でなくても、1%でも声を上げたい人がいるなら、その声を見える形にしたかったのです。
 岡田 非常に新鮮でした。政治にあまり関心がないと思っていた若い人たちが、こんなに声を上げたことが。
 奥田 国の政治に全く関心のない人はいないと思うんです。関心を持てば変わるんじゃないかと考える人がいる。それに対して一つのやり方を示すことができたと思います。シールズに参加した人が「今日は国会前に行ったよ」と発信し、それを見た人がさらに集まってくれた。僕が主催した昨年の国会前デモでは政治的なスピーチをしたことがない若い子たちの、今までにない語り口でのスピーチが新鮮で、面白くなったのだと思います。主語は「私は」で言おうと。

「動くことで変えられるかもしれない」体験で得たその感覚は簡単には忘れない

 岡田 安保法制は残念ながら成立しましたが、振り返って、一番の問題は何だと思いますか。
 奥田 手続きの問題ですね。改憲をしたいのなら手続きに則(のっと)って国民投票をすべきなのに、それをすっ飛ばして法案を通してしまった。戦後70年、どの総理大臣も黒と言ってきたものを白と解釈改憲だけで変える。それが通るのなら何でもできてしまう。
 岡田 中には、9条の下で自衛隊を合憲だとしたことに比べれば、大した問題ではないという人もいる。しかし当時の状況と、民主主義国家として成熟した今とでは時代が違いますからね。
 奥田 それでも一応、専守防衛に限るとか、警察権の延長であるという建前があったわけです。今回の他国の戦争への参加や海外での交戦権は枠組みを越えているという憲法学者の見解は、何も突飛な意見ではなく、今まで自民党自身が言ってきたことですよね。
 岡田 許せないのは、安倍総理が「海外派兵はしない」とか、「専守防衛に徹する」と言っていることですね。詭弁(きべん)だと思います。
 奥田 憲法9条も基本的な論理は変わっていないと言いますが、論理が変わったから違う答えが出てきたのだと思います。
 岡田 PKO法改正や周辺事態法を重要影響事態法に改正する大問題を、11本もの法案の中の一つに束ねてドンと出してきたことで、議論する時間がほとんどなかったのも問題です。私たちは安保法制の廃止法案を提出していて、議論のやり直しを求めているのですが、私は、法律ができたら国民の皆さんの関心が薄れるのではと心配していたのです。でも変わっていませんね。デモも、訴えも続いているし。
 奥田 法案が通った日の国会前での抗議の後、終電もなくなって皆で朝までいたのですが、確かに可決した時は皆さん怒りや悲しみに満ちていたけれど、帰って行く時の表情はポジティブでした。「次はどうしようか」と前向きな話をしながら帰りました。あの時動いた人たちの、動いたことで変わるかもしれないという感覚は簡単には消えません。実際、野党の人たちが結束していこうということで変わってきたし、僕ら自身も、できることが増えた。今まで交流のなかった市民団体同士が交流をしたりとか。
 岡田 それは参院選挙に向かっての動きにも現れていますね。市民団体が中心になり、野党5党が協力して候補者を立てるという動きが各地で起きている。それは若い皆さんの活動があってのことだと思います。
 奥田 僕も熊本などに足を運びましたが、特定の世代だけではなくお母さんがいたり若者がいたり、新しい政治活動の光景がありました。選挙に行くだけでは満足できなくなって、投票する人を応援していこうという動きが全国で起きつつあるのかもしれません。
 岡田 心強いことですよね。次の選挙からは選挙権が18歳に引き下げられますが、若い皆さんには大いに政治に参加し、声を発していただきたいと強く思います。
 奥田 60代に比べ3分の1くらいしかいない世代ですから、数の上では影響ないという声もありますが、僕はそうではないと思います。社会の皆が政治のことを考え、議論をしてもいいのだという空気感が生まれるのではないでしょうか。
 岡田 現実の問題として20代の投票率は低いのですが、18、19歳の人たちが選挙に関心を持って行動で示せば、すごく刺激になるはずですね。
 奥田 全世代に広がる気がします。若い子たちだけの問題ではなく、社会全体のことだと皆が考えてくれたらいいなと。
 岡田 私たちは被選挙権も引き下げるべきと考えています。日本にも20歳の市長や国会議員がいていい。制度にブロックされて挑戦もできないのはおかしい。
 奥田 国会内に幅広い意見が集まると思うので、被選挙権の引き下げには賛成です。その世代にしか分からないことがありますし。例えばクールジャパン担当大臣は60代よりは20代がやった方がいいと思いますし(笑)。

国民に語りかけ、国民とともに進む、開かれた政党であってほしい

 岡田 奥田さんご自身は政治家になる気持ちはないのですか。
 奥田 もちろん政治家になるというのは、市民運動の一つの成果だと思います。けれど僕の今の関心は、政治のことを口にしづらい空気を変えていくことです。皆、政治にどう参加したらいいか分からないのですよ。党員でノウハウがある人ならば、政党に働きかけることもできるかもしれませんが、多くの人はそうではない。僕はそういう人たちが政治参加する手段を広げたいと思います。もちろん、政治家になる人たちの応援もしたいですね。メンバーからこの先、出馬する人がいるかもしれませんし。
 岡田 政治家を長年やっていて思うのは、日本はなぜこんなに政治家に信頼を置かないのかと。与野党問わず真面目にやっている政治家も多いのですけどね。北欧等では、税金が高くても必ず還元されるという信頼感があるから拒否感なく払えるわけですが、日本は違う。政治家は信頼できる政治を行っていかなければならない。
 奥田 僕たちにとっては政治家や政党との距離がすごく遠い感じです。自分たちに向けて語られている感じがしない。本来は自分たちの代弁者であり、代表なのだから、応援したい気持ちはあると思うんですけど。
 岡田 なるほど。
 奥田 昨年の夏、ある主婦の方が解説付きで国会答弁を書き起こし、1万人くらいがシェアしました。安保法制が話題になったので、皆が知りたいと思ったのですよ。 岡田 伝える努力をするべきですよね。
 奥田 もっと開いたものになるといいなと思います。「民進党」という党名を聞いた時、僕は「民とともに進む」というイメージが湧きました。安保法制をきっかけに市民が動いて、野党を応援したいという空気も出てきました。ぜひそれに応えてほしい。僕たち国民に語りかけ、国民と一緒に政治を進めていく政党になってほしいですね。
 岡田 民進党というのは正にその通りの意味です。党名に恥じないような活動をしっかりしていきたいと思います。国民から信頼される政治をぜひとも実現したいですね。

(民進プレス改題1号 2016年4月1日号より)

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