4月24日に投開票が行われた衆院北海道5区補欠選挙では、民進党など野党4党と市民団体が共闘して池田真紀氏を統一候補に推し、当初の予想を覆す大激戦を展開した。結果は惜しくも敗れたが、そこには新しい選挙の形があった。

衆院北海道5区補欠選挙を振り返って

民進党北海道・道民生活局長 池田真紀(いけだ・まき)さん 

民進党北海道・道民生活局長 

池田真紀(いけだ・まき)さん 

 岡田 まずはお疲れさまでした。
 北海道5区はわが党がなかなか勝てない選挙区でしたので、当初は非常に厳しい戦いだと言われました。それが大接戦という結果になったのは、池田さんの候補者としての魅力に加えて、市民を中心に各党が協力できたことが大きかったと思います。具体的には、前札幌市長の上田文雄さんらの市民団体があり、それを軸に各党が集まって選挙戦を戦う形になりました。こうした形での選挙戦の利点や、あるいは勝手の違った点など、率直に感じていることをお話しいただけますか。
 池田 はい。昨年6月1日に町村衆院議員が亡くなられて、自民党は6月中に、共産党は8月末に自党の候補者を決めましたが、民主党はなかなか擁立できませんでした。
 そうした中、12月9日に「市民の会」※から私へ立候補の要請があり、2日後には民主党北海道から要請を受け、同19日に立候補を表明しました。
 市民の会は、私に立候補を要請した翌日12月10日から、「野党は共闘」を求める運動を進め、その結果、2月19日に「民主党道5区総支部、共産党道5区選対本部、市民の会、池田まき」の4者が協定を締結し、野党統一候補のかたちとなったわけです。
 ところが各地域に行くと、その経緯をもう一度やり直さなければいけない。そこが組織とは違う、トップダウンではない部分だと思いました。行く先々で一人ひとりとの対話を、逆戻りしながらでもやらなければいけないというのが、難しい点でもあり、歯がゆい点でもありました。2月19日から約1カ月間、市民連合との調印式の3月20日まではその動きでした。 岡田 市民団体はさまざまな活動団体の集まりなので、上意下達ではいかない。1つ1つの団体の皆さんと会って、池田さんという候補者を分かってもらって、そしてそれぞれが納得して動き出すと。そこに時間がかかったということですね。
 池田 そうですね。でも市民と一緒に進む選挙では、このプロセスは必要だと思います。民主主義の手続きのようなことですね。ただこれは、時間をかけられる補選だからできたという部分もあります。

民進党代表 岡田克也(おかだ・かつや)

民進党代表 岡田克也(おかだ・かつや)

 岡田 やはり日頃からそういう信頼関係ができていることが大事ですね。それがないと、単純に「推薦してくれたから、応援してくれるだろう」とはいきませんね。

 市民の皆さんの応援は、具体的にはどういう感じでしたか?
 池田 特徴的だったのは、SNSを使って自分の言葉でキャッチフレーズをどんどん拡散したり、宣伝物をそれぞれが作って発信していたことだと思います。みんなが思いのままに、自分で表現する形がありました。
 私のキャッチコピーも、最初の「ずっと平和を、もっと安心を」から「ふつうの人から豊かになろう」という広がりのあるメッセージになり、本番では「誰ひとり置いてきぼりにしない」という私の言葉をベースにしたものになりましたが、それを一人ひとりが自由に、自分なりに使っていたように思います。
 岡田 補選だからできた部分もありますが、そこに新しい選挙のやり方のヒントがあるように思いますよね。
 池田 このような形を取り入れていくと、市民のモチベーションもすごく上がります。選挙の時だけではなく、「政治は自分たちのものなんだ」という意識が高まってくるのだと思います。市民が選挙事務所にお伺いを立てて、何かお手伝いするというスタイルではなく、本当に一人ひとりが主体的に運動できるということを、今回とても実感できました。

7月の選挙に向けて

 岡田 7月の選挙で訴える争点は、補選とかなり共通するだろうと思いますが、直近の国政選挙を戦った当事者として、有権者は何を聞きたいと思い、どう訴えていくべきだと思いますか。
 池田 私の場合は、経済と社会保障のバランスや、トリクルダウンの否定をもう少し前面に出しても良かったのかなと思っています。多くの人にいまだにアベノミクスに期待する部分があるので、そうではないということと、私たちが目指している社会保障政策こそ経済政策なんだということを伝えられればと。
 岡田 そこは非常に大事ですね。8割ぐらいの人が「景気回復を実感していない」と答えているにもかかわらず、安倍政権の支持率があるのは、3年半経ってだんだん疑いの目を向けてきているけれども、なお、期待している人たちがいる。
 加えて、「じゃあどうすればいいのか」というところで、われわれが言ってきた「共生社会」の中身を積極的かつ具体的に訴えていくことが大事だと思います。
 池田 そう思います。そういう発信を日頃から有権者に伝えていくことですよね。
 一方で、外交や安全保障などは地域で暮らしている人たちには遠い話なのかなと感じました。
 岡田 ただそこは争点化していかなければいけないと思っています。安保法制と憲法9条の改正は、しっかり訴えて理解してもらわなければなりません。
 与党に3分の2の議席を許し、憲法を改正されて平和主義が変わってしまうと、他国で米軍と一緒に武力攻撃するようなことが当たり前にできる国になってしまう。それはわが国の憲法の平和主義の大きな転換だということを伝えなければいけないと思うんですね。
 池田 憲法の問題は、説明を専門的にすると自分とは遠い話だと思われますが、実はみんなに関係する話ですよね。今は憲法が危機的状況にあるということを、しっかり伝えていきたいと思います。
 岡田 最後に、これから選挙戦を戦う全国の候補者にメッセージを。
 池田 市民との選挙では、やはり主体性を大事にしていくことがとても重要だと思います。組織型ではなく、ネットワーク型の、チームや1人でもできる運動を尊重し、共有し共感していくことで盛り上がってくると思います。
 それと私が「誰ひとり置いてきぼりにしない」をキャッチフレーズにしたように、これまで棄権していた人たちに対してもメッセージを発信し、必ずどこかで振り向いていただくように心がけていくことが、運動の広がりにつながると思います。
 岡田 政治をあきらめていた人たちに行動してもらえるような運動ができるかどうかというのが、今度の選挙では非常に大きなポイントだと思いますね。関心がないわけじゃない、関心があってもあきらめているという人たちに、「これは自分の問題だ」「動くことで変わるんだ」と感じていただけるかどうか。
 池田 私は選挙とは「訴える」ものだと思っていたんですけれども、今回は市民のところに出向いて行って「聞く」というスタイルがすごく多かったと思います。一方通行ではない、双方向の関係の中で情報を伝えていくことが重要なんだと、選挙戦を通じて実感させていただきました。
 岡田 耳を傾け、お互い共感の中でともに動く、ということですね。 私も25年間の政治家としての経験を通じて、それまでと大きく認識が変わったのは、「普通の人が素晴らしい」ということなんですね。その力を本当に引き出すことができた時に、物事が変わると。だから普通の人たちの意見に耳を傾け、こちらも率直に、正直にお話をし、お互い信頼関係の中でともに世の中を変えていく。そういう関係ができた時に、本当にこの国は変わるんだと思うんです。ぜひ、そういう大きなきっかけとなる選挙にしたいと思います。