衆院本会議で1日、政府提出の「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案」が審議入りし、民進党・無所属クラブを代表して柚木道義議員が質問に立った。同法案は「年金カット法案」と呼ばれ、年金給付額を抑制する新たな改定ルールの導入により物価が上がっても現役世代の賃金が下がった場合は年金受給額を減らすとする内容や、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の組織改革などが盛り込まれている。

 柚木議員は冒頭、安倍政権が当初同法案との一括審議を求めてきた「無年金者救済法案」が、野党の求めに応じて分離先行審議、同日の衆院本会議で可決したことに、「約64万人の無年金者にとって大きな前進であり、巨大与党に対して野党の提案が実現した特筆すべき成果だ」と意義を強調。

 そのうえで、政府が公表した、年金カット法案に盛り込んだ年金給付抑制の新ルールが過去に適用されていたと仮定した場合の給付額の試算について「大変な誤解を招くもの」だと批判。政府の試算では、2005年度から10年間適用されていた場合、基礎年金の給付額は3%減る一方、現役世代の基礎年金額は7%程度増えるとしているが、新ルールの試算をする時だけ意図的に「可処分所得割合の減額マイナス0.2%」の影響を除いていることから、「現行ルールと新ルールの比較をする際に、双方ともマイナス0.2%にするか、双方ともマイナス0.2%を除いて比較するか、どちらにしても基準を同じにしなくては、年金新カットルールによる影響額は測定できない。なぜ意図的に減額幅の少ない試算を出したのか。基準をそろえて比較すれば、民進党の試算通り5.2%減額、基礎年金で年額4万円減額、厚生年金で14万2千円減額になることを認めるか」と迫った。

 加えて、基礎年金7%、月額5千円の増試算についても、今後100年ずっと賃金が上がり続ける、物価上昇率を賃金上昇率が上回り続ける「ありえない経済前提」だと年金局が認め、塩崎厚生労働大臣も「7%上がるわけではない」と認める答弁を委員会質疑でしていると指摘。この試算の出し直しとともに、国民に大きな影響を及ぼす厚生年金についても数値での試算を示すよう求めた。

 これに対し、安倍総理は「計算の前提としている2014年度の財政検証では、デフレから脱却し長期的に物価、賃金ともにプラスとなる経済前提を想定しているため、将来にわたり、今回の改定ルールが発動する前提とはなっていない。今回のルールはあらゆる事態に備えて見直しを行うものだ。何よりも重要なのは強い経済をつくっていくこと。経済の再生に全力で取り組んでいる。賃金が物価よりも低下する状況を前提とした基礎年金と厚生年金の計算を行うことは考えていない」と強弁。現役世代の基礎年金7%増額試算は、新ルールが発動されないことを前提したものであることを自ら認めた。

 柚木議員はこれを受け、あらためて試算の撤回と謝罪、出し直しを要求。「7%の増額は事実か否か」と再質問、再質問で迫ったが安倍総理はこれには答えなかった。

 柚木議員はまた、同法案による年金カット新ルールで年金の最低保障機能が大幅に損なわれていくだけでなく、安倍政権では医療費や介護費用の負担増メニューオンパレードが検討されていることから、「こうしたトータルでの負担増や年金カット法案の影響などによって高齢者の生活保護受給者の激増が心配される」と指摘。政府として高齢者の貧困率を調査し、生活保護受給者が年金カット法案の影響も含めトータルでの負担増でどれだけ増えるのかをきちんと試算・想定し、必要な対策を前倒しで準備し実施していくのが責任ある政治だと訴えた。

 「同法案が施行された場合、仮に年金制度は守られても、現在、将来の年金生活者は守れない。年金制度と年金生活者の両方を守ってこそ責任ある政治であり、未来への責任だ」とも主張。現実的な試算をきちんと政府が示し、責任ある議論を与野党が進められる環境を整えることが不可欠だと述べ、間違っても年金カット法案の強行採決を行わないよう求め質問を終えた。

年金カット法案に関して質問する柚木議員

年金カット法案に関して質問する柚木議員