参院本会議で9日午前、政府提出の消費税引き上げ延期関連の地方税・地方交付税法改正案(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律等の一部を改正する法律案)の趣旨説明と質疑が行われ、民進党・新緑風会の杉尾秀哉議員が質問に立った。

 杉尾議員は質問で(1)消費増税再延期やむなきに至った経済政策に関する見解(2)再延期の理由とされた「世界経済が危機に陥るリスク」の認識は正しかったか(3)消費増税の政治公約を「新しい判断」の一語で180度転換させる政府の正当性(4)衆参ダブル選挙を総理に進言したとされる麻生大臣の再延期に関する認識(5)社会保障と税の一体改革の精神は事実上崩壊したのではないか(6)現下の経済状況で引き上げられないなら安倍政権下では増税不可能ではないか(7)再延期するのであるなら景気条項を復活すべき(8)給付付き税額控除の採用をかたくなに拒む理由と軽減税率の財源確保について (9)消費増税延期なら代替財源を探すべき(10)2020年プライマリーバランス黒字化の現実性(11)1億総活躍社会実現に必要な保育士、介護士の待遇改善等の財源の手当(12)消費増税やむなしとの全国知事会の提案と増税再延期に対する懸念への見解(13)子ども・子育て支援や、医療・介護の充実費の安定財源の確保――等の問題を取り上げた。

質問に立つ杉尾議員

質問に立つ杉尾議員

 杉尾議員は冒頭、「わが党は先の参院選で、消費税の10%への引き上げを2年延期することを公約に掲げた。その理由は、低迷したままの現下の経済情勢では、本来やるべき消費税の引き上げを実施できる環境にないからだ」と指摘。また、安倍総理が「アベノミクスは成功した」と発言していることを踏まえ、「そうであるなら消費増税に踏み切れたはずだし、建設国債と旧来型の公共事業に頼った28兆円という安倍政権では最大規模の経済対策の補正予算を打つ必要もなかったはず」と、安倍政権の矛盾を突いた。

 杉尾議員は消費増税延期に関しては(1)再延期の決定に至るプロセスと決定そのもの(2)社会保障と税の一体改革の精神を踏みにじり、社会保障政策に甚大な影響を及ぼしかねない――という2の問題があるとの見方を示した。

 (1)については、最初の延期の際に安倍総理は「再び延期することはない。ハッキリ断言する。必ずや増税可能な経済状況を作り出す」などと大見得を切ったにもかかわらず、G7   サミットで最近の経済指標とリーマンショック前後を比較したペーパーをわざわざ示し、各国首脳の前で「世界経済は危機に陥るリスクに直面している」と安倍総理が主張したことに言及。「安倍総理は、海外の経済状況に再延期の責任を転嫁し、サミットの場を自らの政治責任回避のために利用した」と指摘。麻生財務大臣に「あれは消費増税延期の口実のために、作り出された危機ではなかった」と問うた。麻生大臣は「世界経済はさまざまなリスクに直面している。日本経済も消費に力強さを欠いた状況にある。このようななかデフレ不況からの脱却を目指した政策に万全を期すため伊勢志摩サミットでの合意に基づいてあらゆる施策を総動員することとした。作り出された危機との指摘は当たらない」などと弁解した。

 杉尾議員はまた、「そもそも消費税の10%への引き上げは、将来世代へのつけ回しを極力避けるためのもの。多大な政治資源を使い、国民の皆様に多大な負担をお願いしてまで実現しようとした『社会保障と税の一体改革』の精神は、2度にわたる増税延期によってズタズタに踏みにじられた」と指摘した。

 こうした見解を示したうえで杉尾議員は(1)消費増税を延期するなら所得税の累進課税や金融課税の強化、相続税改革など代替財源を探す努力をするのが責任ある政治の姿であること(2)こうした努力なくしてはプライマリーバランス2020年黒字化の目標達成は困難なので、その前提となる名目GDP3%の高成長はまさに「絵に描いた餅」と言えること――等も問題視した。                      

 そして、消費増税延期のもう一つの問題が社会保障、および地方に与える影響であることについて懸念を示し、消費税10%引き上げ分のうち社会保障の充実に1.3兆円が使われるはずだったこと、また「1億総活躍社会プラン」に掲げられた保育士、介護人材の処遇改善に2千億円が必要と言われていることも踏まえ、財源のメドが立たないままこれら充実策を実施するというのなら無責任と言わざるを得ないとして、麻生大臣に財政全般に責任を有する立場から財源確保を約束してほしいと迫った。

 消費税・地方消費税率の引き上げによる増収分は、子ども・子育て支援や医療介護の充実に向けた施策の実施など、社会保障の充実や安定化に充てることとされており、税率引き上げの再延期により、これらの施策は税率引き上げまで、その財源を失うことになると指摘。また、政府は消費税・地方消費税率の引き上げを再延期しても、保育の受け皿50万人分の確保など、可能な限り社会保障の充実を実施すると表明している点をふまえ、「費用については、国の責任で安定財源を確保すべきであり、地方に負担を転嫁するような制度改正等があってはならない」との考えを示し、高市総務大臣に対応を求めた。高市大臣は「ローカルアベノミクスの推進により地域に雇用と働く場を生み出し、地域経済の好循環を進め、消費税の引き上げを確実に実施できる環境を整えることで地方の声に応える」などと述べるとともに、社会保障費の財源については「地方財政に支障を生じることのないよう対応していく」と表明したが、具体策は示されなかった。

 杉尾議員は「今回の消費増税再延期は、7月の参院選を考えたポリティシャンの政治の極みだったのではないか。そんなことで、果たして次の世代に責任を持てるのか」と訴え、次世代に責任を負うことを軽視する安倍政権を問題視し、質問を終えた。

PDF「参院本会議杉尾秀哉議員質問原稿」参院本会議杉尾秀哉議員質問原稿