医療が崩壊すると言われて久しい。民主党政権では医療の崩壊を食い止めるために診療報酬を2回続けて引き上げた。しかし安倍政権ではマイナス改定するなど、後退している現状に対して、民進党が目指す医療体制について、医師であり衆院厚労委員会委員の中島克仁衆院議員に聞いた。

◆◆医療崩壊を防ぐために◆◆

 民主党政権時代に、診療報酬を2回続けてプラス改定した。しかし今の安倍政権では、社会保障費、特に医療費が毎年増え続けているとして、効率化・適正化の名の下に実質的には削減の方向になっている。

 また経済もそうだが、医療でも地域間の格差が非常に激しくなっている現状もある。例えば医療機関の西高東低という話がある。西日本と比べると東日本で医療ベッド数や診療所、医師で数が少ない。医療偏在というものが実際に起こっている。国民皆保険制度の中で、必要な医療が十分に受けられない地域が存在する中で、公的な医療費削減を目的とする診療報酬のマイナス改定は、医療崩壊、さらには地域間での医療格差をさらに加速させてしまう可能性がある。

 われわれ政治家の使命は、誰もが安心して生活を送っていけるような医療体制を構築することだ。そのためにも、必要な医療を日本全国どこにいても受けられるよう、安心・安全な医療体制をつくるためにも、診療報酬はしっかりと手当てしなくてはならない。

国民皆保険制度について

 わが国の国民皆保険制度は世界に誇れる制度だと思う。当然この制度は何としても堅持しなくてはならない。このことはわが党の基本的なスタンスだ。ただし問題点も指摘されている。国民健康保険、協会けんぽなどさまざまな保険者間での公平性が少し欠けているという状況だ。例えば国保の保険料の納付率は他の保険より低く、税が投入される割合も他の保険よりも多くなっている。そういう意味では頑張っている保険の方が不公平感を感じるということが現実として起こっている。保険者間での公平性をしっかりと維持していくために、医療保険については、今後は一元的な運用を高めていくようにするのが望ましい。

 また、医療の質と効率性を同時に高めていくために、かかりつけ医(家庭医)制度を明確に定義することを推奨する。医者と患者の密着感をより強めながら、かつ質を落とさずにしっかりとした医療を提供し、診療所、病院間の機能分担のためにも必要な制度だと考えるからだ。

かかりつけ医で予防医療の充実を図る

 かかりつけ医という制度は予防医療にも効果がある。例えば日本人の死亡割合の30%以上はがんで、2人に1人ががんにかかる時代になった。そうしたなかでかかりつけ医が個々の患者さんの検診の充実、リスクファクターである喫煙や飲酒などを適切に管理していく。さらには、病気になる前の入口の部分で、かかりつけ医の果たす役割を明確にし、自分が受け持っている患者さんたちが、健康で長生きすることが医師の評価につながるようにするような制度をつくることも重要だ。

 また予防医療の面では、日本はワクチン後進国と言われている。安心・安全を大前提として、さまざまな予防接種の普及、啓発にも取り組んでいくべきだと考える。
 加えて、医療は病気になった人を診るというもので、病気にならない人には保険点数が付かない。予防医療を進めるために、予防医療に対するインセンティブを明確に位置付けることはすごく大事なことだ。

歯科医療とのチーム医療

 現役の医師として、特に在宅医療をやっていた立場から言うと、患者の健康を管理する上で、口腔ケアの重要性も指摘したい。歯の健康が体全体の健康につながるということは、当然の認識となっているが、患者の健康管理という意味からも、医療と歯科医療をしっかりと組み合わせ、チーム医療を構築していくことが必要だと思う。健康維持のために食べることは大事だ。歯科医療をしっかりと充実していかなくてはいけない。

医療に対する信頼を取り戻す

 腹腔鏡手術で8人が死亡した群馬大学の事故など、そもそも医療に対する信頼性が確保できているのか。治験や臨床研究など、国民皆保険の中で皆さんに提供されている医療を本当に信頼できるものなのか。民進党は、医療の信頼を取り戻すべく、しっかりと問題解決に取り組んでいく。

◆◆がん対策基本法の改正に向けて◆◆

ネクスト厚生労働大臣 足立信也参院議員(あだち・しんや)

ネクスト厚生労働大臣 足立信也参院議員

(あだち・しんや)

 日本では今年、およそ101万人が新たにがんにかかり、37万人ががんが原因で亡くなります。国民の2人に1人ががんになり、亡くなる方の3分の1以上ががんです。また高齢者人口の増加により、今後この比率は高くなると見込まれます。第1の国民病です。
 2006年の「がん対策基本法」の成立に、当時の民主党は主導的役割を果たしました。経緯は以下の通りです。
 06年4月4日、民主党の仙谷由人(当時)、古川元久両議員を中心に衆院に法案を提出。5月22日、参院本会議で民主党の山本孝史議員(当時)が自らのがんを告白、法案の早期成立を訴える。23日、自民党が衆院に対案提出。6月7日、与党と民主党が法案の一本化に合意。9日、衆院厚労委で全会一致可決。13日、衆院本会議で可決。15日、参院厚労委で全会一致可決。16日、参院本会議で全会一致可決・成立。
 山本議員は当初、個別の疾患に対する立法には反対の姿勢でしたが、確定診断の翌月に福島県立大野病院産科医逮捕事件が起きました。一気に「医療崩壊」が加速する雰囲気に覆われました。がん治療は情報格差、緩和医療、医療現場の労働環境問題、医療訴訟問題など、多くの問題を内包しています。われわれはがん対策を通して医療崩壊解決の突破口にしたいと考えました。山本議員も得心され、文字通り命を削って成立に奔走されました。私にはこの「がん対策基本法」を育てていかなければならない義務があると思っています。
 今国会で成立を目指す「がん対策基本法改正案」のポイントは、がんの治療に伴う副作用や合併症、後遺症の予防や軽減に関する方法の開発などの研究の推進、緩和ケアが診断の時から適切に提供されること、がん患者の療養生活の質の維持向上など、がん患者とその家族の身体的、精神的、社会的な苦痛の軽減に向けた視点が入ったことです。さらに民進党の提案により、この10年で課題が浮き彫りになった患者数の少ないがん及び難治性のがんに関する研究の推進等に、必要な配慮をするとの規定を盛り込むことが出来ました。また、がん教育推進に関する規定がやや学校教育に偏り過ぎているのではないかと思い、社会教育という文言を追加することができました。「がん対策基本法」は民主党が生み、民進党が育てなければならない法律です。 

(民進プレス改題16号 2016年11月18日より)

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