長時間労働の問題に政治は敏感に対応しているのか。女性を取り巻く環境は整ったのか。子どもの貧困対策はどうか。「国民目線」「働く者の立場に立った政治」をキーワードに連合の神津里季生会長と蓮舫代表が語り合った。


働く者の目線で対案を提示する

連合会長 神津 里季生(こうづ・りきお)

連合会長 神津 里季生(こうづ・りきお)

 蓮舫 まず私自身のことを申し上げますと、大学の途中からフリーランスの立場で仕事をしてきましたので、仕事の確保も社会保障も自己責任。そういう経験のなかで、雇用の不安という点では実感があります。また、バブルがはじける前後で就職した友人が厳しい労働環境に悩む姿も目にして、政治は若い人たちを、働く人を大事にするものであってほしいという思いが強くありました。

 神津 代表の思いに共感します。民主党から民進党へと一貫して取り組んできた政策は、連合の「働く者の政策」と一致するものです。そうしたなか、安倍政権が「働き方改革」を打ち出しました。「働き方改革実現会議(以下実現会議)」が設置され、前進しているかのような姿を見せています。しかし、中身はどうでしょう? 私も会議の委員ですが、昨年の通常国会での労働者派遣法改正案の審議を思い起こせば、注意深く対応していく必要があると思っています。

民進党代表 蓮舫(れんほう)

民進党代表 蓮舫(れんほう)

 蓮舫 安倍政権が「働き方改革」に着眼するのは、日本の人口動態から必然です。少子・高齢化社会のなかでは生産年齢人口が減少していくので、一人ひとりの労働生産性をどう高めるかは、社会の持続可能性を担保していくうえではまさに政治課題です。ただ、実現会議の構成を見ると、労働者側からは神津会長しかおられず、ほとんどが使用者側であることに違和感を覚えます。何よりも、中身が伴っていないのが残念で、現在も過労死や長時間労働の問題があり、安定労働を求める声が高まっているにも関わらず、実現会議ではまだ議論の段階。あまりにも国民視線と、時間軸に鈍感です。

 神津 「働き方改革」は9テーマがありますが、そのうちの、「同一労働同一賃金」「賃上げ」「長時間労働是正」の3つが新聞などでクローズアップされ、見出しだけを見た国民の評価につながっている気がします。しかし、テレワークや副業といったテーマは、好きな場所で柔軟な仕事をするということで聞こえはいいが、労働時間の把握・管理をどうするのか。この点が抜け落ちたままでは、過労死・過労自殺を生む温床になりかねません。このように、使用者側の内容かどうか目を凝らして確認しなければならない点を多く含んでいます。こうした動きのなかで、代表が打ち出している対案路線は大事なことです。働く者の目線でものごとを組み立てる民進党が、民主党後の一時の厳しい時期から何とか脱出するタイミングで、蓮舫さんが代表になられた。働く者の目線を復活させる意味でも象徴的なことだと思います。

社会にまん延する事態に敏感に長時間労働規制法案を提出

 蓮舫 大手広告代理店の24歳の女性社員が、クリスマスの朝にお母さんと連絡をとった後、自ら死を選ぶという事件がありました(※1)。こうした事態に政治はもっと敏感でなければなりません。民進党は働く皆さんの声に敏感でありたいと思い、長時間労働規制法案を提出しました(詳細4面参照)。事件を重く受け止め、違法な時間外労働をさせた企業への罰則の強化とともに、連合の皆さんからのかねてからのご指摘を踏まえて36協定(※2)による労働時間の延長に上限規制を設けること、EU並みのインターバル規制の導入、裁量労働制の要件の厳格化、違反事例の公表義務付け強化などを盛り込んでいます。時代の必然、求められる法整備です。

 神津 過労死という言葉は、日本発で世界の共通言語になっています。こんな不名誉なことはないわけですよ。毎年認定ベースで100人を超える方々が過労死で亡くなられています。政治が本気で取り組みどうやって止めるかだと思います。


民進党が率先してクオータ制実現へ

 神津 クオータ制の話もさせてください。制度をつくるための法案提出に向けた自民党の会議で、「女性の社会進出で社会全体が豊かになっているとは思えない」といった異論が噴出したという記事を読んで驚きました。クオータ制の整備は絶対前に進めるべきもの。遅れをとっている日本が制度をつくれないままでは、世界に追いつけません。女性の力を社会で生かすための第一歩となる制度ですから、自民党にも呼び掛けて実現してもらいたい。

 蓮舫 言葉だけで中身が伴っていないのが安倍政権です。「女性が輝く社会」と言いながら、世界各国の男女平等の度合いを指数化した「ジェンダー・ギャップ指数」2016年版で、日本は144カ国中111位。前年より10も降下しました。低い順位の要因として政界への女性進出の遅れも挙げられているので、議席や候補者擁立に女性や若者の割り当てを定めて、積極的に増やしていくことは重要です。クオータ制については岡田克也前代表の強い思いを引き継いで提案し続けております。そうしたなかで、超党派議連の会長である中川正春衆院議員が汗をかいて下さって、自民党からも案が出てくるというのでそれを待っていたところ、信じられない発言が飛び出しました。

 神津 あれは思わず出たまさしく本音なのでしょう。だからこそ民進党が実現に向けて自民党に強く働きかけていただきたいと強く思います。

将来の社会保障費減のためにも今、子どもの貧困対策が必要

 蓮舫 子どもの貧困の問題も重い政治課題です。ひとり親家庭の2人に1人の子どもが相対的貧困に陥っています。母子家庭の就業率は8割超と先進国で高いのに、平均就労年収は約180万円程度で低い。劣悪な労働環境で単価の低い働き方をしている方が多く、ダブルワーク、トリプルワークをしても相対的貧困から抜け出せない状況です。おそらく先の発言をしたような自民党議員には、貧困に苦しむひとり親家庭の実情に思いを巡らせることが困難なのだと思います。ここを改善しなければなりません。民進党は(1)児童扶養手当支給期間を20歳まで延長し、第2子以降を月1万円に引き上げること(2)保育や就学関係費用などへの一層の助成・給付拡大(3)返済不要の給付型奨学金の創設――など子どもの貧困対策を提案してきました。また、ワーキングプアともいえる状況を改善するため、(1)男女の賃金格差の是正(2)非正規・正規の賃金格差の解消などを実現したいと思っています。

 神津 そのあたりが民進党らしさだと思います。長年にわたって子どもの貧困の問題を指摘してこられた首都大学東京の阿部彩教授のお話を聞く機会があって、自分の考えと一致すると感じたのですが、当事者だけの問題と捉えられがちですが、日本の社会全体の問題、政治の責任の問題です。厚生労働省が発表した子どもの相対的貧困率は16・3%に上り、6人に1人の約330万人が貧困に該当するとのことですが、これは社会が生み出した姿とも言えます。安倍政権はアベノミクスによって名目国内総生産(GDP) を600兆円に引き上げると目標を掲げましたが、それを目指すのではなく、民進党が掲げるように、税の分配の仕方を変え、人への投資を行うことから経済再生を目指すべきです。一人ひとりを元気にすることで成長につなげていく。人に視点を当てた政策の実現を連合も応援したいと思います。

 蓮舫 教育への投資、あるいは貧困から抜け出すための支援は将来の納税者を増やすことにつながります。将来の生活保護受給者にするのではなく、自立できる人を増やし、納税者や社会保険料負担の担い手を増やすことは、政治が最優先事項として着手しなければならないもの。生まれてきた家庭の経済力に左右されずに能力を生かすことができる、学びたいと思う子どもたちが進学をあきらめることがない社会をつくる。子どもたちの育ちを社会で支えることは民進党の大切な旗です。

 神津 人への投資で皆が成長していくというのは、ヨーロッパで言う包摂的成長で社会を立て直すことと一致するものだと思うので、ぜひ取り組んでください。本当は衆院解散などをしている暇はないというのが私の主張でもあります。

 蓮舫 細野豪志代表代行が担当する政策アップグレード検討会議で、いつ総選挙があってもいいように、われわれが掲げる旗を明確に示す準備をしています。連合の皆さんと一緒に戦える部分が多いと思いますので、よろしくお願いします。特にわれわれは不仲説が言われていますから(笑)。

 神津 ぜひぜひ(笑)。メディアというのは誰と誰が喧嘩しているといったことを好んで取り上げるので、「えっ、そこだけ切り取られたか」と驚くことがよくあります。

 蓮舫 岡田前代表は党内の規律を守る党にすることに尽力され、現在は江田憲司代表代行に地方組織のガバナンスの強化をお願いしています。目指すのはいい国をつくるというたった一つのこと。安倍政権が人に寄り添った政治をしていないのであれば、民進党が行っていきます。

 神津 地域を大事にする政策を行うということも自民党との違いだと思います。民主党政権のときにやってきたことを安倍政権が次々にひっくり返して、明治以来の中央集権国家みたいなところに後戻りしています。党の地方組織を強化することで、地域の人たちの期待を担っていただきたい。国政選挙も、それぞれの地域で候補者擁立をお願いします。2014年の選挙でつらかったのは、地域に応援する相手がいない選挙区が少なくなかったことでした。

 蓮舫 その節は申し訳ありませんでした。今は着々と公認内定候補を決定しておりますので、よろしくお願いします。

※1電通の新人社員が昨年12月、過労により自死。労災認定された問題を受け、厚生労働省は11月7日、電通本社と全国の3支社に労働基準法違反の疑いで強制捜査に入った。
※2労働基準法第36条に規定されている時間外・休日労働に関する協定届。「特別条項」を結べば、例外的に限度時間を超えることができる。

無類の動物好きというお二人のプライベートな一面

神津家の初代のワンちゃんたち

神津家の初代のワンちゃんたち

 神津会長は「今はゴールデンレトリーバーとシーズーとチワワと猫2匹。すべて保護した子で、共存共栄で暮らしています。包摂社会ですね」とのこと。蓮舫代表も「うちも犬3匹と猫5匹、保護したりわけありの子ばかり。家族はみんな動物好きで、動物が家族を結んでいる感じです」

代表宅の奥がララちゃん、手前がガビちゃん「

代表宅の奥がララちゃん、手前がガビちゃん

(民進プレス改題17号 2016年12月2日号より)

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