年金カット法案

 参院本会議で14日、「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案」(いわゆる年金カット法案)の採決が行われ、与党の賛成多数で可決、成立した。

反対の立場から討論に立った川合孝典議員

反対の立場から討論に立った川合孝典議員

 採決に先立ち、反対の立場から討論に立った川合孝典議員は、「失われた公的年金制度への信頼を取り戻すことは、国民の老後不安を軽減する上で不可欠。安定した公的年金制度の構築によって冷え込んでいる国民の消費マインドを上向かせる効果も期待出来ることから、景気対策としても極めて有効であると考える」と強調。「今回の改正案には、十分とは言えないまでも短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進や国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料免除による次世代育成支援への配慮など公的年金制度の機能強化に向けた評価すべき項目が含まれている」と評価する一方、(1)限られた年金財政の中で持続可能性を追い求めようとした結果、公的年金制度が本来果たすべき役割である『最低保障機能』の検証が全く抜け落ちている(2)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用ポートフォリオの在り方や多額の公的資金が株式市場や企業経営に与える影響など数多くの課題が残されたままである(3)将来の年金額を推定する上で最も重要となる年金財政検証における経済前提が実体経済を無視した内容となっている――と問題点を挙げた。

 前回法改正後の2005年から12年間で7回も賃金変動率がマイナスとなっているにも関わらず、今後100年間、賃金・物価がともに上昇し続けるという前提に立った試算を行っているため、厚生労働委員会では、物価・賃金の実態に即した将来推計資料の提出を要求してきたが、審議中の資料提出はなかった」と問題視。審議最終日の13日になってようやく塩崎厚労大臣が物価・賃金がマイナスとなった場合の将来推計資料を年内に提出する旨答弁したことに、「本来この資料に基づいて審議を行うべきであり政府の不誠実な姿勢には怒りを感じる」と語気を強めた。

 最後に、急速な少子高齢化が進展する現在の日本で制度改革が社会・経済の構造変化に対応しきれていないとして、公的年金制度の抜本改革の必要性を訴え、「年金財政検証における経済前提が外れた財政的なツケを払うことになるのは将来世代だ」「超長寿社会を想定して基礎年金の拠出期間を延ばすことや被用者保険の適用拡大をさらに進めること、低賃金で働く労働者にとって過度な負担となっている逆進性の高い定額保険料の在り方などを速やかに検討し、措置を講じなければ、近い将来より深刻化した年金財政と向き合わなければない」と指摘。「持続的な景気回復のためには、国民の将来不安を取り除き、消費を活発化させることが必要。まともな将来の年金額の試算すら行わないまま、目先の財源にとらわれて公的年金制度のセーフティネット機能を低下させ、生活保護の増大と将来不安を助長しかねない今回の法案には断固反対である」と表明した。

伊達議長不信任決議案

 審議に先立ち、民進党ほか野党が共同で提出した伊達忠一参院議長不信任決議案が上程された。

趣旨弁明に立った小川敏夫参院会長

趣旨弁明に立った小川敏夫参院会長

 趣旨弁明に立った小川敏夫参院会長は、「伊達議長には参院を代表する議長としてのリーダーシップが足らない」と非難。伊達議長が自民党参院幹事長時代に発議し成立させた参院選挙制度改革に関する改正公職選挙法をめぐり、「抜本的見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとすること」と明記されているにもかかわらず、この議論をせず、議論の場を設けることもせず放置していることに、「伊達議長の責任は重いと言わざるを得ない。これ以上この職を任せることはできない」と断じた。

 賛成の立場から討論に立った吉川沙織参院議員は、延長国会に入ってから、与野党合意を基本とする議員立法でありながら衆院内閣委員会で採決が強行され、異常な形で参院に送付されてきたカジノ法案の審議入りを伊達議長が容認したことを特に問題視。「現在の政権運営、議会運営は、民主主義イコール多数決という間違った考え方に基づき数の力で強引に政策を強行しようとしている。これをただし、少数派の意見を十分反映した慎重な審議を行われるよう指導するのが議長のなすべき仕事であり、行政府や与党の意に沿うような議会、議事運営を行うものではない。伊達議長の議会運営、議事運営は良識の府たる本院を代表する議長の姿として承服できるものではない」などと理由を述べた。