衆院法務委員会で16日午前、弁護士でニューヨーク州弁護士資格も持つ木村圭二郎氏、中央大学名誉教授で弁護士の椎橋隆幸氏、弁護士の海渡雄一氏、弁護士の加藤健次氏、成城大学法学部教授の指宿信氏を招き、共謀罪法案(組織犯罪処罰法改正案)に関する参考人質疑を行った。民進党からは井出庸生議員が質疑に立った。

成城大学法学部教授の指宿信氏

成城大学法学部教授の指宿信氏

 井出議員はまず、指宿参考人が「監視カメラやGPS端末などが共謀罪捜査に導入される」と陳述した理由について質問。指宿参考人は、「共謀罪は嫌疑をうけた者の内心を立証しなければならない以上、供述や行動から証拠を収集しなければならない。そのことからこうした技術が使われるようになると指摘した。任意捜査の名の下に、行政・司法両面の警察活動で行われる捜査手法には、ほとんど法的規制がわが国ではなされていなかった。海外との比較からこのことを明確にするために陳述した」などと答えた。

 金田法相が「共謀罪は通信傍受の対象にしていないし、将来も法改正の予定はない、監視社会になることはあり得ない」などと答弁したことについて、今後どういうルールや歯止めが必要かについても指宿参考人に質問。指宿参考人は、「国会で取り組むべき課題は多く残されている。裁判所が機能している点で監視型社会になることはないという政府答弁があるが、これは裁判になって証拠として法廷に提出されなければ裁判官も分からない。海外ではさらに進んだ技術が使われている。監視捜査に関する法的規制を一刻も早くわが国でも立ちあげてもらいたい」と答えた。

 椎橋参考人には、金田法務大臣が「間違っても一般人が捜査対象になることはない」と答弁したことに賛同するかどうかを質問。椎橋参考人は、「共謀罪の成立には、重大犯罪実行の合意と実行準備行為が必要。慎重な捜査をした上で対象に当たるかどうかを判断する。仮に誤ってそうでない人を(捜査するということが)場合によってはあるかもしれないが、当初の捜査の段階で捜査から落ちていく」と、場合によっては誤りもあり得ると述べた。

 井出議員は最後に、政府が「予備行為は実行準備行為に比べて相当危険なことがなければ処罰されない」と説明しているにもかかわらず、共謀罪法案の対象犯罪277の中で、現行法の予備罪よりも共謀罪の方が法定刑が重くなっていることを取り上げ、「これは不整合ではないか」として各参考人に意見を求めた。

 木村参考人は、「今回の共謀罪では主体を組織的犯罪集団に限定している。一定の集団ないし身分的なものを限定することで重罰化することはあると思うので、不整合であるとはならないと思う」と述べた。

 椎橋参考人は、「共謀罪では5年以下となっていることは、TOC条約の要請の一つだと思う。個人よりも組織的に行われた犯罪の方が実現可能性、結果の重大性が大きいので引き上げたのだと思う」と述べた。

海渡雄一氏

海渡雄一氏

 海渡参考人は、「明らかに不整合になっていると思う。日本では未遂以前の処罰は予備を基本としてきたが、それを今回300近くも共謀罪を作ろうとしていることから起きている。抜けている部分に予備罪を作るという民進党の提案が非常に意義があると思う」と述べた。

 加藤参考人は、「立法上の不備としか言いようがないと考えている。共謀罪を導入することによって、本来罰せられない未遂や予備でさえない行為が罰せられる。組織的犯罪集団だから実行準備行為段階などで危険があると言うが、客観的には何の危険性も認知できない」などと述べた。

 指宿参考人は、「共謀だから、互いがどんな分担行為をしたかを取り調べで供述を引き出さなければならない。最高裁判例では『切り違え尋問』は違法とされている。しかし取り調べの録音・録画がなければどういう取り調べが行われているか分からない。分担に関する供述の任意性、信用性が担保できない」と話した。

「共謀罪」法案に関する参考人質疑を行われ、各参考人に質問する井出議員

「共謀罪」法案に関して各参考人に質問する井出議員