参院法務委員会で30日に行われた共謀罪法案の審議で、午前中に続き有田芳生議員が質疑に立ち、国民の多くが凶悪事案として発想し得るオウム真理教による地下鉄サリン事件は、今回の共謀罪法が整備されれば防ぐことができるのか等について金田法務大臣や林刑事局長に確認した。

 有田議員は衆院での審議の際、テロ対策として現行法上的確に対処できない事案として政府が(1)テロ組織が殺傷能力が高い化学薬品を製造し、これを用いて同時多発的に一般市民の大量殺人を行うことを計画したうえ、例えば殺傷能力の高い原料の一部を入手した場合(2)テロ組織が飛行機を乗っ取って高層ビルに突撃するテロを計画したとき――などを例示したことに言及。(1)についてはオウム真理教による地下鉄サリン事件を想起させるものだとの見方を示し、オウム事件を想起して現行法上的確に対処できない事案として挙げたのかの確認を求めたが、金田大臣は「具体的な事例を念頭に置いたものではない」と答弁。オウム真理教はテロ集団に当たるかとの問いには前回の参院法務委員会の質疑では「テロ集団に当たる」と明言したにもかかわらず、本日の質疑では「捜査機関が収集した情報に基づいて判断すべきもの。捜査公判が行われた当時は組織的犯罪集団という概念は存在しておらず、同教団が組織的犯罪集団と認めることができるか否かを申し上げることはできない」などと、金田大臣は明言を避けた。

 有田議員は歴史の教訓に学ぶことは重要で、テロ対策なり得るかを判断する際、今回の共謀罪法案があればオウム真理教の事件を食い止めることができたかどうかの検証は非常に重要であるはずだと指摘した。そうした指摘に林刑事局長は「かつての事象が組織的犯罪集団に該当するかは証拠に基づいて判断するもので、具体的に認定することはできかねる」などとしたうえで、「一般論」との条件つきで「宗教団体として活動した団体で、その教祖が殺人を正当化する教義を唱えるようになり、その実践として化学薬品を用いて無差別大量殺りくを実行することやそのための教団の武装化を指示し、構成員らが、こういった行為を反復継続して行うことが認められる事案を想定するならば組織的犯罪集団には該当し得る」などとした。

 こうした発言を受けて有田議員は、政府の見解では「(オウム真理教は)テロ集団だと明言しなければおかしなことになる」との見方を示すとともに、今回の処罰の対象となる組織的犯罪集団か否かを判断するのは、6条の2にある「結合関係の基礎としての共同の目的」が別表第3にある「罪を実行することにあることを言う」とされているが、オウム真理教についての「結合関係の基礎としての共同の目的」は最初から最後まで宗教であると指摘。また、「宗教団体だったものが一変して組織的犯罪集団となる」論があるが、質疑では「一変」を判断する基準についてあいまいな答弁が続いたと指摘。「オウム真理教について組織的犯罪集団にならないのではないか」と有田議員は重ねて確認を求めたが、林刑事局長は「結合関係の基礎としての共同の目的である宗教的な目的が、宗教的な教義の実践ということと犯罪実行が不可分に結びついているかどうかはその時点で判断することになる」と答弁。テロ対策のための共謀罪法案と政府は主張するが、テロ対策としての実効性のあいまいさが浮き彫りになった。