参院法務委員会で1日、弁護士の西村幸三氏、青山学院大学名誉教授の新倉修氏、立命館大学大学院法務研究科教授の松宮孝明氏を招き、共謀罪法案(組織犯罪処罰法改正案)に関する参考人質疑を行った。民進党からは同委員会理事の真山勇一議員が質問した。

 真山議員は衆院での議論を経てもこの法案については「よく分からない」というのが国民の多くの見方だと指摘。参院の審議では原点に戻って議論していくと述べ、主張・立場の違う3人の参考人に共通の質問を投げかけ、問題を掘り下げた。

 問1 テロ等準備罪法案とされているが、私たちは共謀罪法案であると思っている。政府は東京オリンピック・パラリンピックのために法案が必要と主張するが、本当にテロを防止できる法律になっているか。

 西村氏 国連安保理の2014年の決議で示されたように、組織的犯罪組織が収益を得て、それがテロリスト集団に流れている。これを防止すべきだというのが国際的な共通認識だと考える。組織的犯罪処罰法の犯罪収益はく奪がテロ防止に役立つというのが国際的な認識だ。

 新倉氏 テロとは何かという定義が書いていない。見る人によって答え方が全部違ってくる。すでに(規制が)日本より進んでいるイギリスや、参加罪の規定を持っているドイツやフランスでもテロは起こっている。私に言わせると刑法でどこまで予防きるのかというとおそらく無理。無理なことを承知でやろうとしているのはかなり冒険ではないか。

 松宮氏 西村参考人が話していることは実はテロ資金準備罪系統の法律で対処すべきものであって、共謀罪で対処すべきものではない。この法案のなかではほとんど共謀罪についてしか述べていないが、テロ資金準備罪についてきちんとした規制をするかどうかというのは今回問題になっていない。共謀罪がテロを防止する効果があるかは実際的に考えてあり得ない。前提としてTOC条約はテロ対策でない、共謀罪でテロが防止できるというのは考えない方がいいし、考えたら危険。

 問2 これまでの委員会での答弁で政府側は組織犯罪集団の犯罪を防ぐことができる、大勢の人が計画準備をするならば捜査の対象になるという一方で、諸外国で頻発している個人や2~3人が行うテロについて、委員会でも「ローンウルフ型の犯罪は取り締まれない」という答弁があった。そうなのか、そうであるならば(こうしたローンウルフ型の犯罪は)どうやって防ぐべきなのか。

 松宮氏 ローンウルフ型のテロを防止することは法律では無理。一人でやられたら事前には何が行われているかすらわからない。むしろ問題はどうしてそうしたローンウルフ型のテロに走る人が出てしまうことを解明して、対策をとることだと思う。

 新倉氏 基本的には松宮参考人と同じ意見。犯罪を起こそうという気持ちを起こすのは、社会から相当自分はひどい目にあっている人。警察力で止められるということになると怪しい人にタグでもつけて、監視するしかない。そういう監視社会を望むのか。それよりもみんなが安心して暮らせるような、地域規制を高めていくことが必要。教育におけるいじめの問題と同じ。

 西村氏 共謀罪の段階で単独犯による犯行はまったく処罰の対象ではない。確かに最低限2人でも成立してしまうが、実質的にはそういう人の結合体が組織的犯罪処罰法の2条と、今回の6条の両方に絞り込まれたものに該当することはまずはめったにないというのが私の感覚。両参考人が話したようにテロを実際にどういう人が起こしているかという背景は、社会から疎外感を持たれている人が多いと思う。日本でも外国人に優しい社会を構築していかないといけない。

 問3 一般の人たちが巻き込まれるかというのがとても大きな関心事になっている。一般人が巻き込まれるというのと、きちんと団体を指定しているのだから巻き込まれないという対立構造が続いている。これは一番大きな焦点についてそれぞれのご意見を。

 西村氏 組織的犯罪処罰法の現行法の2条で、団体の定義があり、さらに今回は組織的犯罪集団の定義として、6条の2で、団体のうち結合関係の基礎としての共同の目的ということで単なる共同の目的ではだめだということで、結合関係の基礎とまでなるだけの本質的なものでなければだめなのだということで絞り込みをかけている。

 新倉 一般人とは何かという定義について国会では随分議論しているが一般人は相変わらず漠然とした概念だと思う。私は(自分自身を)一般人だと思うが、人が見ればあなたは特殊だ、変わっているということになる。要するに歯止めについて法案にきちんと書かれているのかということで考えると、その歯止めはないというのが私の意見。

 松宮 5月29日、参院本会議で大臣が「当該団体が標榜している目的や構成員らの主張する目的のみによって判断するのではなく、継続的な結合体全体の活動実態等から見て客観的に何が構成員の結合関係の基礎になっているかについて社会通念に従って認定されるべきものと考えられる。対外的には、環境保護や人権保護を標榜していたとしても、それがいわば隠れみのであって、実態に構成員の結合関係の基礎としての共同の目的が一定の重大な犯罪等を実行することにある団体と認められるような場合には組織的犯罪集団と認められる」とも発言している。これは非常に大事なことで、しかも個別具体的な判断であるから、安心ではない。