参院法務委員会で1日、「共謀罪」法案の審議が行われ、質問に立った有田議員はオウム事件の歴史的経験から「組織的犯罪集団」とは何かをテーマに、「『テロ等準備罪』があればオウム事件は防げたのか」を追及、政府の見解をただした。

 有田議員は冒頭、前回質疑での林刑事局長の答弁内容「テロ組織と関わりのない個人が過激化して引き起こすテロ(ローン・ウルフ型のテロ)はテロ等準備罪の対象ではない」「人間が対等・平等で指揮命令に基づいて定められた任務の分担という組織が存在していない団体は今回のテロ等準備罪の構成要件は満たさない」「インターネット上で知り合い、デパートを1回爆破しようと計画し1週間の間に継続して何回か相談をし、対象のデパートの下見をした場合については、団体というものが存在せずテロ等準備罪には当たらない」について、金田法務大臣も同一の見解であることを確認した。

 そのうえで、「今度の法案が仮に成立したとしても、世界でいま多く起きている一匹狼型の自爆テロがもし日本で計画され実行されても食い止めることはできない」との前提に立ち、オウム真理教が犯罪行為に至るまでの経過を振り返りながら質問。

 1984年、当初サークルとしてスタートしたオウム真理教は、1987年1月のセミナーで教祖が信者たちへの講義のなかで「悪いことをしようとした人がいて、それを殺害(ポア)することはその人のためになる」との教えを説いた。その後、教祖が信者6人とともにサリン製造プラントの建設を決め、製造するためのダミー会社をつくる。ダミー会社がサリン製造を目的としていると知らないままその構造に組み込まれた、そこで働く人がいる。

 こうした段階それぞれについて「組織的犯罪集団」と認定されるかを尋ねると、林刑事局長は、「組織的犯罪集団と認めるためには、犯罪実行の目的で集合している、多数の継続的集合体があることが前提になる。共同の目的が犯罪実行にあると認定されるには、宗教的な教義と犯罪実行の目的が不可分一体のものとして結びついている実態が必要」「共同の目的が犯罪実行であることに加え、その犯罪実行の目的を実現するためにその団体のなかにさまざまな役割をつくり、組織を構成する必要がある」「サリン製造という目的に向かって組織を構成することであれば、組織的犯罪集団と認めるための共同の目的が犯罪実行にあるかどうかをクリアしている」「組織的犯罪集団の構成員というのは、共同の目的が犯罪実行にあることを認識していないと構成員とは認められない。構成員の周辺にいる人。テロ等準備罪は構成員であれば処罰されるものではなく、構成員だが計画した場合、計画者が処罰されるもの」などと答弁。サリン製造のためのダミー会社をつくった段階で、団体のなかで犯罪実行の目的のための役割分担があり、反復して行われているとされ、「組織的犯罪集団」と認定できる可能性があるとの見解を述べた。

 有田議員は、「テロ等準備罪ができても地下鉄サリン事件は防ぐことはできなかった」という当時の国松警察庁長官の発言にも触れ、「警察は1989年11月の坂本弁護士一家殺害事件、94年6月の松本サリン事件へのオウム真理教の関与を疑っていたにもかかわらず地下鉄サリン事件を防ぐことができなかった。この総括をやらないままにこうした法案をやろうとしている」と問題視。一方で、神奈川県警が地下鉄サリン事件の2年後に公開した資料によって、視察、内偵、張り込み、尾行、24時間の監視体制など信者8405人、脱会した231人まで調べられ、個人情報がデータベース化されていたことが明らかになっているとして、「オム真理教の1万1千人の当時の信者のなかで逮捕・起訴されているのは63人とごく一部。捜査対象となれば一般人も監視の対象になる。それが現実だ。観念的な議論をいくらしても実態は分からない」「今回の法案が成立してもテロの防止にはならず、労働組合や市民運動などは威力業務妨害罪等の疑いで捜査の対象になる可能性は極めて高い」と強く訴えた。