2016年度決算を議題に参院本会議が4日開かれ、質問に立った民進党・新緑風会の難波奨二議員は、(1)国の財政健全化への取り組み(2)量的・質的金融緩和等の日本銀行の財務への影響(3)森友・加計問題(4)商工中金問題――等について安倍総理に質問した。決算質疑に先立ち、「北朝鮮による弾道ミサイル発射に抗議する決議案」の採択が行われ、全会一致で可決した。

 難波議員は「参院は決算重視の院である」と語り、国の財政健全化への取り組みに関して、「一昨年、この場で総理が決算審査を軽視していると指摘したが、2年が経過した今も変わっていない」との見方を示した。民進党が求めてきた憲法第53条に基づく臨時国会の召集要求を3カ月放置した挙げ句、やっと9月に開いた臨時会では冒頭解散し、今特別国会でも当初は会期を8日間にしようとして、「森友・加計問題隠しがひどい」という国民世論に後押しされて会期が39日間となり、会期中に会計検査院報告の提出が行われ、やっと本日の決算審議となったと経緯を説明、「決算軽視・疑惑隠しとの指摘がある」と断じた。

 安倍総理が衆院解散の際、財政健全化目標の先送りに言及したことも問題視した難波議員は、財政健全化を進めるに当たり3党合意に基づく消費増税が前提となっていたが、安倍内閣は消費税増収分の使途を変更し、教育無償化など、子どもへの支援拡充策を検討している点について、「財政健全化は何よりも将来世代のために行うものであり、財政再建が遠のくようでは本末転倒」だとした。これに対して安倍総理は「大きな改革には大きな財源が必要になる。財源の目当てがないままでは改革の中身自体が小さくなる恐れがある。そのため今回国民の信を問い、理解を得たうえで消費税の使いみちを見直すこととした。これによりプライマリーバランスの黒字化の達成率に影響することから2020年度の黒字化は困難となるが目標はしっかり堅持する」などと答えた。

 財政健全化の取り組みが始まった1997年以降の20年間で、毎年設定される目標達成のための取り組み方針の指標は決算ベースに当てはめれば10カ年でも達成されておらず、補正予算編成が常態化し、当初予算によってのみ評価しても財政健全化への取り組み状況を正確に判断することは難しいと難波議員は分析。「当初予算ベースで取り組み方針を判断することは、補正予算におけるバラマキをごまかすための隠れみの」との指摘し、取り組み方針の指標には決算額を用いるべきと問題提起した。「自然災害など特別な理由がない限り、当初予算の直前に補正予算を編成するなどということはやめ、総合予算主義に則った当初予算のみの予算編成とすべき」だと訴えた。

政府にただす難波奨二議員

 量的・質的金融緩和等の日本銀行の財務への影響等に関して難波議員は、2013年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、日銀のバランスシートは過去に例を見ない規模で急速に拡大し、日銀は足下で年間約60兆円の国債を買い増しており、発行額全体に占める保有割合は4割にものぼり、総資産額では約518兆円とGDPに匹敵する規模となっている点を問題視した。一方、物価の伸び率は目標の2%にはほど遠い状況で、達成時期は6回にわたり先送りされている状況について、「デフレではないと言い切るが、これだけの金融緩和を行いながらも、物価目標が未達成であるのは何故か、デフレ脱却の4条件(消費者物価指数、GDPデフレーター、需給ギャップ、単位労働コスト)はどうなっているか」をただした。安倍総理は「現在企業の金利・価格スタンスが慎重なものにとどまっていることなどを背景に消費者物価が弱めの動きとなっているものの、マクロ的な需要ギャップが着実に改善していくこと等から2%の物価安定目標に向けたモメンタムは維持されている。政府としては引き続き日本銀行が物価安定目標の実現に向けて努力していることを期待している」と語った。難波議員は「物価目標がなかなか達成できないのは政府が有効な成長戦略を講ずることができず、生産性の向上や需要の底上げが不十分であったことが原因。物価目標の未達成はアベノミクスの3本の矢の一つである成長戦略の失敗」と指摘した。

 また、日銀は国債のみならず、金融緩和の一環として、ETF(上場投資信託)形式でも巨額の株式投資をし、保有額は時価20兆円にのぼっている点にも着目した。「国債と異なり、償還のない株式は売却時期によって市場に大きな影響を及ぼしかねず、このまま買い入れが続けば官製市場となり、健全な市場を歪めてしまう」と問題視した。

 加計学園問題については、国家戦略特区の石破4条件(1)新たな分野のニーズがある(2)既存の大学で対応できない(3)教授陣・施設が充実している(4)獣医師の需給バランスに悪影響を与えない――が満たされているか不明確な上、事業者が加計学園に絞り込まれた経緯の記録も残っていないなど、国民の疑念は払しょくされていないと指摘。国民の知る権利を損なうものであり、真相究明に努力すべきで、総理夫妻と加計理事長の私的関係についても国民は納得していないとの見方を示した。これに対し安倍総理は、「法令に基づき一貫してオープンなプロセスで進められるなかで関係大臣合意のもと4項目充足は確認されており、選定のプロセスは民間有識者も一点の曇りもないと述べているものと承知している」などと強弁。「加計理事長は学生時代からの友人だが私の地位を利用して何かを成し遂げようとしたことはこの40年間一度もない」とも言い放った。

 森友学園問題については、会計検査院から参院に提出された報告に、国有地売却の際の値引きの根拠が不十分で、実際のごみの量は国の推計量の3~7割程度であること、ごみ撤去費用の積算資料等が残っておらず文書管理にも問題があると指摘されている点に難波議員は着目。国会で安倍総理は、「法令等に基づき適正に手続が行われ、また価格について適切な算定がなされた」などと答弁してきたが、今回の検査院の指摘でそれが否定されたと断じた。

 また、過大な値引きにより国有地を不当に安く売却し、事実と異なる答弁を再三行ってきた佐川元理財局長が国税庁長官の要職に就任したことについては、納税者たる国民の心理からすると到底納得できないと指摘し、あわせて今後の国有地売却の手続きのあり方、公文書管理のあり方の見直し、再発防止策、再調査の実施を強く求めた。

 森友・加計問題に共通する事項として、内閣人事局の弊害についても難波議員はふれ、「内閣人事局を通して政治家が官僚の人事を掌握することにより忖度(そんたく)が生まれ、結果的に行政が歪んでいることは、全体の奉仕者としての公務員制度をないがしろにする」と述べ、「両問題とも国民の理解は到底得られておらず、これで幕引きということはできない」として、引き続き追及していく考えを明言した。

PDF「難波奨二議員参院本会議質問原稿」難波奨二議員参院本会議質問原稿