衆院北海道5区補選告示直前の4月10日に北海道千歳市で開かれた街頭演説会で、安倍政権の危険性を訴えたジャーナリストの鳥越俊太郎氏。今回岡田克也代表との対談で、現政権とメディアの関係、安保法制・憲法改正の是非について語っていただいた。

変容するメディアと官邸の関係安倍政権の神経質な監視が招いた緊張

ジャーナリスト 鳥越俊太郎(とりごえ・しゅんたろう)氏

ジャーナリスト 

鳥越俊太郎(とりごえ・しゅんたろう)氏

 岡田 ご自身は新聞からテレビの世界に入られましたね。
 鳥越 新聞記者を24年半務め、文章を書くことには自信がありましたから、テレビのコメントぐらい訳ないと思っていましたね。でも1分、30秒という短い尺で視聴者に要領よく伝えなければいけないテレビの世界は、書くのとは全く違う。そのことになかなか気づきませんでした。当時一緒に番組をやっていた田丸美寿々さんに「あなたは30秒のコメントに血を吐いてない」と言われました。その時はカッとしたけれども考えてみればその通りです(笑)。特に話が長いのは、1に学者、2に政治家ですね。
 岡田 それは心しないといけませんね(笑)。
 鳥越 前提条件から始めて、結論を最後に言うから長くなるんです。テレビに出る時は、結論からバン! と話していただきたい。
 岡田 そのテレビ出演ですが、地上波で政治家が話す機会が非常に減ってきたと思うんです。
 鳥越 そうですね。以前はもっと自由に政治家を番組に呼んでいた。これは安倍政権になってからの現象で、率直に言うと、政府高官がオフレコの懇談会で実名を挙げるんですよ、「あのキャスターの発言はおかしい」とか。それで民放もNHKも政治的発言に対しピリピリしている。また野党1党だけを呼ぶことも少なくなりました。
 岡田 自民党だけのことはありますけれどね。総理が出たい時に出たい番組に出るというスタイルも当たり前になりました。これまでは、善し悪しは別として、各局持ち回りで呼んでましたね。
 鳥越 あれは記者クラブと官邸の間に取り決めがあったんですが、今は総理が出たい番組を選んで出る。しかもバラエティに近い番組までという部分に、メディアとの関係の変化が見えます。

民進党代表 岡田克也(おかだ・かつや)

民進党代表 岡田克也(おかだ・かつや)

 岡田 最近、国連のデビッド・ケイ特別報告者が、「日本の総理に対する報道に自粛が見られる」という発言をしました。

 鳥越 それは明らかですよね。安倍政権は組織的にメディアを監視し、少しでもおかしいと思えばすぐ「クレームを付ける」「呼びつける」「文書を出す」というさまざまな手を使ってメディアをコントロールし始めました。ロッキード事件でメディアの一斉批判を浴びた時の自民党でもそんな話は聞きませんから、やはり安倍政権のメディアに対する神経質さは異質です。それがいくつかの事例となって現れ、結果、メディアが人選や発言で規制をするようになっています。
 岡田 「クローズアップ現代」「報道ステーション」「ニュース23」と、政権に対して比較的言葉を発していた番組でキャスターの交代が相次いだのは、一応それぞれ理由が説明されてはいますが、偶然の一致とは思えないですね。一方で、メディアで働く若い世代の中に、権力をチェックするというジャーナリズムの基本姿勢が薄くなりつつあるようにも感じます。
 鳥越 そもそも、自分たちがジャーナリズムの一翼を担っていると自覚している人はテレビ業界に少ないですし、メディアの使命というものをよく分かっていません。米国では、メディアは納税者の負託を受け、税金がちゃんと使われているかどうか権力をチェックするという役割が歴史的に形成されてきましたから、それが当然の務めだと教えられます。しかし日本のメディアにはそうした認識があまりないんですね。

野党が手を結び、専守防衛の平和憲法を守ること――それが多くの国民の願い

 岡田 集団的自衛権ですが、安倍総理は北朝鮮の脅威や周辺国の問題を取り上げ、日米同盟を強化することで抑止力を高め、そのために集団的自衛権の限定的行使が重要だと強調しています。ここは有権者が流されないように、きちんと説明をしておく必要があると思うんです。もちろん日米同盟は重要です。私も党首討論で、戦後70年の平和は日米同盟と憲法9条によってもたらされたと発言しました。しかし安倍総理は、同盟関係を双務的なものにしたい考えです。「日本のために米国の若者が血を流すのに、日本は米国のために血を流さなくていいのか」という議論を展開していたこともありました。憲法改正で、限定のない集団的自衛権の行使を目指しています。
 鳥越 僕は少し意見が違います。日本が戦後、日米同盟によって守られたと言える脅威はなかったと思うんですよ。逆に米軍基地があるために、ソ連(当時)のICBM(大陸間弾道ミサイル)のターゲットになっていた。キューバ危機で核戦争になっていたら、真っ先に日本はやられています。それに日本は血を流さないと言いますが、在日米軍基地を持つことで米国にどれほどのメリットがあるか。
 岡田 先進国で、これだけ他国に基地を提供している国はありませんね。さらに地球の裏側まで行って一緒に血を流すというのは、まさしく国益を損なう判断です。
 鳥越 専守防衛の一線を崩さないことが大事です。それで国民の過半数の賛成を得られると思います。
 岡田 憲法の平和主義とは、少なくとも国際的な争いごとを日本が武力によって解決しないという決意の表れだと思うんです。集団的自衛権を認めればそこから逸脱することになる。
 鳥越 過去の大戦の教訓として、集団的自衛権、つまり同盟関係が世界規模の戦争に発展した一つの要因であると。どこかの国同士が手を結んで、どこかの国をやっつけることはもうしないというのが憲法の精神だと僕は思います。そこを一歩踏み出すとどんどんエスカレートしていきます。
 岡田 日本は戦後、武力行使をしていない国として、特に中東やアジアの国々から非常に尊敬の念を抱かれている。それを捨てて普通の国になってしまうのか。そういう意味でも時代の大きな分岐点だと思います。
 鳥越 おそらく安倍自民党は、夏の参院選で3分の2の議席を取れば、憲法改正の発議を行うでしょう。自民党の憲法改正草案が必ずしも国民投票で通るとは限りませんが。
 岡田 私も国民の良識を信じています。ただ、政権のプレイアップの仕方とメディアの扱い方によっては怖いですね。
 鳥越 そういう危ない橋は渡りたくないので、与党が3分の2の議席を取ることだけは阻止してほしい。それは多くの国民の願いだと思うんです。安倍政権に好き勝手をさせないための行動を、野党でやってほしい。北海道5区補選のような、野党で手を結んで1人の候補者を立てるという方法が最良だと思いますね。
 岡田 統一候補といっても、無所属の人を各党が推薦する形だけではなく、他党が候補者を立てないことで結果的にわが党の公認候補1人になるケースも多いんですよ。地域ごとに一番勝てるやり方をすればいいと思っています。3分の2の議席を取らせないのは最低条件ですが、そこから一つひとつ積み上げて、大きく流れを変える結果を出したい。そのために、野党同士の足の引っ張り合いがあってはならないのはその通りですね。
 鳥越 最後にあらためて僕の気持ちを聞いてもらいたいのですが、僕は戦後71年間、何が起きたかを見てきました。政治の歴史も、国際的な歴史も。その上で、今私たちが直面している日本の政治はあまりにも「異常」です。ですから、とにかく野党がまとまって選挙を戦って欲しいということに尽きます。いろいろ思うところもあるでしょうけれど、岡田さんのリーダーシップで、反・安倍のただ1点で手をつないで勝つという気持ちになってほしい。それが僕の切なる願いです。でなければ、日本は危ういと思っています。
 岡田 その流れはできていますから、しっかり結果を出したいと思います。今日はどうもありがとうございました。

(民進プレス改題3号 2016年5月6日号より)

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