【政策解説】TPPは後継者育成、自給率向上をもたらさない 田名部匡代政調副会長


 国会で農業への影響を中心にTPPを追及してきた田名部匡代政調副会長に参院TPP特別委員会の審議状況について聞いた。

TPP特別委で多岐にわたる問題や懸念が露呈

 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に否定的なトランプ氏が米国大統領選で勝利した翌日、国会では「結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」と安倍総理が断言したにも関わらず、TPP承認案と関連法案が衆院本会議で強行採決された。その後、総理はトランプ氏と会談し「信頼できる指導者だと確信した」と、TPP承認に強い意欲を示したが、会談からわずか5日後、トランプ氏はTPP離脱を明言。発効がもはや不可能となったにも関わらず国会を延長し、今なお参院で審議を継続させている安倍政権の姿勢は全く理解できない。

 衆院の質疑の中では、重要5項目の中で無傷で守られたものはないことが判明。食の安全基準や国家の主権を損なうISDS条項の合意等、多岐にわたる分野で多くの問題や懸念が指摘された。これらは自民党が選挙の際に掲げたTPP参加の判断基準でもあるにも関わらず、政府から出された資料は真っ黒塗りで、十分な情報公開や詳細な影響評価もなされていない。聖域を守ると言いつつ、交渉では関税の撤廃や削減をしない「除外」や「再協議」の規定を設けないとしている。また参加国からの要請があれば、発効から7年後に全ての品目が関税撤廃、関税割当、セーフガード、関税削減期間の見直しの対象となり得る後戻りのできない交渉内容となっている。

農業者が安定的に生産活動に取り組めるように

 政府が公表した農産品への影響試算についても、米の価格には全く影響がないとし、攻めの農林水産業・体質強化対策が100%機能することが前提となっており、非常に甘い試算と言わざるを得ない。しかも、この体質強化対策は、TPPに向けた新たな対策ではなく、元々必要な対策であったり、既に取り組んできたものを羅列しただけで、財源の確保も何ら保障されていない。政府は、セーフガードが設けられるから大丈夫だと答弁しているが、牛肉は16年目以降4年連続発動されなければ廃止、豚肉も12年目で撤廃と全ての品目で期限付きとなっている。輸出向けの生産活動を行える農家は全体のごく一部であり、低価格の輸入品が増加することにより、国産の農産物への影響は免れず、離農者は増え、後継者も育たないということになれば、雇用は失われ、地方経済にも多大な影響を及ぼす。また、大規模災害や世界の食糧不足が予測される中、自給率が低下し輸入依存に一層拍車がかかれば、国内の食料安全保障のみならず、世界の食料需給に深刻な影響を及ぼしかねない。

 大切なことは、後継者の育成とともに国内自給率を高めていくことである。アベノミクスで一部の大企業や株を持つ人だけが利益を上げる社会ではなく、中小規模であっても農業を生業とし、額に汗して土地や地方経済や日本の食を守る生産者の方々が、これからも安定的に生産活動を継続していける体制をしっかり作り、農業の持つ多面的機能の維持と世界に誇れる日本の食文化を守ることを最優先に取り組むべきと考える。(12月7日)

(民進プレス改題18号 2016年12月16日号より)

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