今回の税制改正議論で、財政健全化については焦点がほとんど当たらなかった。その一つの要因として、2016年秋の第192臨時国会で、政府提出の、いわゆる「消費税引き上げ再延期法案」が成立し、消費税率10パーセントへの引き上げが2017年4月1日から2019年10月1日に先送りされたことがある。しかし、今回の消費税率引き上げ再延期により、危機的状況にあるわが国財政の今後の見通しが一層厳しいものとなったことは厳然たる事実である。そこで、何故再延期に至ったのかという過程と、わが国の税財政の現状について解説する。

急速に進む高齢化

  (図表1)日本の人口の推移

 日本では少子高齢化が急速に進んでおり、1970年には7・1パーセント、1990年には12・0パーセントであった高齢化率(※)は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来人口推計」によると、2016年に27・5パーセント、2025年は30・3パーセント、2050年には38・8パーセントに達し、その後も増加していく見込みである(図表1参照)。国連の資料を見ると、米国やイギリスなどと比べ、いかに世界的にも類を見ない急激なペースで日本の少子高齢化が進んでいるかが分かる(図表2参照)。

(図表2)日本と諸外国の高齢化率の推移

社会保障関連費は上昇していく

(図3)国及び地方の長期債務残高

 年金・医療・介護などの社会保障制度は、基本的に現役世代が高齢世代を支える構造になっている。現役3人で高齢者1人を支える「騎馬戦型」の現在の日本の社会保障制度が、およそ30年後には現役1人で高齢者1人を支える「肩車型」になるという例えは、こうした人口推計に基づいている。

 一方、わが国の国家財政は悪化の一途をたどっている。国・地方の長期債務残高は、1998年度末には553兆円だったが、2017年度末にはおよそ倍の約1094兆円にも達する見込みで、今後も増加に歯止めがかかる見通しは全く立っていない(図表3参照)。各国との比較で見ても、わが国財政は債務残高がGDP(国内総生産)の2倍を超えるなど、主要先進国と比較して最悪の状況にある(図表4参照)。

(図表4)債務残高対GDP比の国際比較


 国の財政の多くは公共事業に費やされているというイメージがあるが、2017年度当初予算ベースで見てみると、国債費24・1パーセント、年金・介護・医療などの社会保障関係費が33・3パーセント、公共事業費6・1パーセント、文教及び科学振興費5・5パーセント、防衛費5・3パーセントといった内訳になっている。多くが社会保障関係費と国債費で占められているのが現実だ。しかも、社会保障関係費は高齢化により今後も上昇の一途をたどる見込みだ。特に人口の多い団塊の世代全員が75歳以上となる2025年に向かって、社会保障関係費は急速に上昇していくことが確実視されている。

 ただし、老後の生活の安心を考えるのであれば、社会保障関係費を大幅に削減していくことは現実的な選択肢にはなりにくい。個々の高齢者が生活を維持できるかどうかという観点だけではなく、老後への不安が人々を貯蓄に駆り立て消費を抑制し、経済の足を引っ張り、それがまた財政状況の悪化を招く側面もあるからだ。

3党合意はしたものの…

 そうした難しい状況の下で、将来世代に負担を先送りせず、いかに社会保障を充実・安定化していくかについて、与野党で政争の具にすることなく議論していかなければならないという機運が高まり、2012年に一定の結論を得たものが、民主・自民・公明によるいわゆる「3党合意」だった。「3党合意」では、国民が広く受益する社会保障の費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合い、安定した財源を確保しつつ、社会保障を充実していく観点から、消費税を引き上げて社会保障の財源にしていくことが企図された。
  しかし、安倍首相は2014年秋に、選挙に有利と見るや、消費税引き上げ延期をまさに政争の具とし、突然衆院を解散した。この解散により、「3党合意」の枠組みは完全に破壊されてしまった。

アベノミクスの行き詰まり

 衆院解散に当たっての記者会見で、安倍首相は「再び延期することはない」「3年間、(アベノミクスの)3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる」と大見得を切ったが、時を経る中で、実質賃金の低下、実質経済成長率の低迷など、アベノミクスの行き詰まりが明らかになってきた。また、2012年の解散の際に国民と約束したはずの議員定数の大幅削減についても、与党は小幅削減で事足れりと、お茶を濁そうとした。そんな中では、消費税率10パーセントへの引き上げに関し、国民の納得が到底得られないことは明白であった。

消費税率引き上げ再延期。財政健全化は…

 そこで、民進党は2016年5月、消費税率10パーセントへの引き上げ再延期、逆進性対策としての給付付き税額控除導入、行財政改革、「社会保障の充実」の前倒し実施等を定める「消費税率の引上げの期日の延期及び給付付き税額控除の導入等に関する法律案」を第190通常国会に提出したが、政府与党は民進党案を審議することなくたなざらしにした。

  一方、安倍首相は、参院選挙前の国会での追及を避けるように、通常国会閉会直後の2016年6月1日に消費税率10パーセントへの引上げ延期を表明した。その際の説明も実に不誠実でひどいものだった。アベノミクスの行き詰まりが消費税率引き上げ再延期の最大の理由であるのは明白であるにもかかわらず、安倍首相は、世界経済にリスクがあるので「新しい判断」をしたなどと見苦しい言い訳をし、世界から失笑を買った。世界経済のリスクはいつでも存在するものであり、言い訳にもなっていない。事実、消費税率8パーセントへの引き上げの判断を行った2013年10月の月例経済報告でも「アメリカの政策動向による影響、中国やその他新興国の先行き、欧州政府債務問題等に留意する必要がある」と指摘されている。

 民進党案に遅れること3カ月余り、第192臨時国会に政府は「消費税引上げ再延期法案」を提出した。その法案審議でも、ついぞ安倍首相から政策失敗の反省の弁は聞かれなかった。

 国債を大規模に購入することなどにより、アベノミクスの一時的な好調を支えてきた日本銀行の金融政策も民進党の指摘通り、とうとう限界に達し、2016年9月に大きな政策変更を余儀なくされた。アベノミクスも早期に転換していかなければならないことは必至だが、いまだ政府・与党から新しい政策の枠組みは見えてこない。

※高齢化率とは、65 歳以上の高齢者人口(老年人口)が総人口に占める割合のこと。


(民進プレス改題19号 2017年1月6日号より)

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