【語る】波乱含みの英国のEU離脱 日本に必要な正確な情勢把握 参院議員・大塚耕平

 英国のEU離脱を巡る動向を調査するために訪欧し、英国のEU離脱省、ベルギーのEU本部等を訪問してきました。

 昨年12月、英国の高裁が「EUへの離脱通告には議会承認が必要」との判断を示したことに政府が上告。最高裁も同様の判決を下す可能性が高いものの、面談したEU離脱省のフィリップソン国際局長は、「離脱承認及び離脱は予定どおり行われる」との楽観的な見通しを示していました。

 英国としては、EU単一市場へのアクセス権を維持しつつ、移民受け入れ制限と労働者の自由移動制限を獲得し、主権制限とEU負担金供出を回避するのが目標です。

 ところが、ロンドンから鉄道で3時間弱、ベルギーの首都ブリュッセルのEU本部のフローレス経済財政局長は、「英国とEUの交渉は困難を極める」との厳しい見方を示しました。シンクタンク等の有識者はさらに辛辣(しんらつ)で、「英国にメリットがあるような離脱交渉にはならない」「リスボン条約50条に基づく離脱通告後の交渉期間(2年間)内に交渉はまとまらない。結果的にハード・ブレグジット(※)しかない」と指摘しています。

 ブリュッセル側の見通しが現実となれば、在英日本企業への影響も小さくありません。単一市場へのアクセス権や関税優遇がなくなり、在英拠点移転等を余儀なくされます。
 英国のメイ首相が国民投票を覆す(EU離脱を止める)可能性も否定できません。なぜなら、英国はEU離脱後も単一市場へのアクセス継続を想定しているからです。これは言わば虫の良い話で、その交渉がまとまらなければ、2年後に英国は単にEUを離脱。英国とEUの関係はWTO(世界貿易機関)ベース(EUよりも自由度の低い関係)になります。まさにハード・ブレグジットです。

■ロンドンとブリュッセルの認識ギャップ

 英国側の楽観論の背景には、安全保障上の理屈もありました。フィリップソン局長のみならず、ロンドンのシンクタンク関係者いわく「英国はNATO(北大西洋条約機構)の一員であり、安全保障上、EU加盟国と英国は不可分の関係。その観点も勘案すると、ハード・ブレグジットにはならない」との論理です。

 しかし、この淡い期待にブリュッセル側は「安全保障とEU問題は別」と断じ、英国が期待するような展開になる保証は全くありません。

 欧州理事会のトゥスク議長も、「ハード・ブレグジットに代わる唯一の選択肢は、ブレグジットを止めること」と発言しています。

 ロンドンとブリュッセルの認識ギャップは他にもありました。リスボン条約50条2項ただし書き(2年以内に交渉がまとまらない場合の延長規定)に対する認識です。

 英国側は「それも選択肢のひとつ」という見解でしたが、ブリュッセル側は一笑。「ただし書きの適用などあり得ない」との反応です。EU側に妥協の兆しはなく、英国にとって圧倒的に不利な交渉です。2017年、英国は前途多難です。

 ブリュッセルの有力シンクタンク、ブリューゲル研究所のウォルフ所長が非常に印象的な発言をしていました。いわく「日本の政府やマスコミはFT(フィナンシャル・タイムス)やガーディアン、エコノミスト等、ロンドンの新聞、雑誌から情報収集している。それでは欧州情勢は正しく伝わらない」。

 日本は正確かつ客観的な情勢把握に努めなくてはなりません。


(※)英国のEU離脱後の英国・EU間の経済関係の交渉が離脱前にまとまることなく、単純に離脱し、関係が冷え込むような展開を指す。

(民進プレス改題20号 2017年1月20日号より)

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