老後を支える介護サービス スタートして18年目 維持するための課題とは?

消費税率が上がって、介護保険制度は充実したの?

 高齢化が進む中、家族による介護の負担が重くなり、病院への「社会的入院」が増えて「介護の社会化」が課題となりました。そうした要請に応え、2000年に介護保険制度が始まりました。その後の要介護者の増加に伴い、介護費用や保険料は増加の一途をたどり、介護施設のニーズも高まる一方です。

 介護をはじめとした社会保障の充実等を図るためには安定財源の確保が必要であり、消費税率が引き上げられました。消費税率の8%への引き上げによる財源の増収分は、1号保険料(※)の低所得者軽減の強化、介護施設の整備等に充てられています。しかし、10%への引き上げが先送りされたことにより、低所得者軽減のさらなる強化策の実施も先送りされています。

 また、安倍政権は消費税率を引き上げたにもかかわらず、社会保障の効率化のため、介護事業者が介護サービスを提供した時に受け取る介護報酬を15年度に大幅に引き下げました。介護事業者は厳しい経営を余儀なくされ、東京商工リサーチの調査結果によれば、16年1年間の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は108件に達し、調査開始以来、最多となっています。

 介護職員の人材不足も深刻です。介護職員の有効求人倍率は17年2月時点で3・33倍で、全職業平均の1・37倍を大きく上回っています。介護職員の人材不足は、介護職員の平均月給が全産業平均よりも約10万円も低いこと等が原因です。政府は17年4月から介護職員の賃金を月額1万円引き上げる処遇改善を行うことにしていますが、10万円程度の開きを考えれば、不十分です。

 次の介護報酬改定は18年度に行われますが、2回連続で引き下げられれば、介護事業所の経営や介護職員の処遇の問題は深刻度を増し、介護サービスの基盤は崩壊してしまいます。

介護サービスの問題点


親が要介護になったら、仕事を
やめなくてはならないの?

 介護サービスの提供を安定的なものにするとともに、介護職員の賃金を改善するため、18年度には報酬を引き上げることが必要不可欠です。

 11年10月からの1年間で家族の介護や看護のために離職・転職した人は10万人を超えています。現在の法律では、介護と仕事の両立を支援するため、介護を必要とする家族1人につき、通算93日まで3回を上限として分割して介護休業を取得することが認められています。

 しかし、連合の調査によれば、93日という介護休業の日数に満足している人は2割程度にとどまり、「6カ月超~1年以内」を希望する人は18%、「1年超~3年以内」が12・9%となっています。介護離職をゼロにするためには、介護休業の日数や回数の増加など、制度の拡充が必要です。

 介護のために仕事を辞めずに済むようにするには、介護サービスを利用しやすい環境をつくる必要がありますが、介護サービスの利用に影響を与える可能性がある法案が今国会で審議されています。

 安倍政権の提案は、介護サービスを利用する場合の利用料の負担割合の引き上げです。15年8月から一定以上の所得のある人は、負担割合が1割から2割に引き上げられました。政府の法案には、18年8月から2割の対象者のうち、現役並み所得の人の負担割合を3割に引き上げることが盛り込まれています。3割負担に引き上げるのであれば、2割負担としたことによって介護サービスの利用を控える傾向が出ていないか、家計に対する影響がどの程度のものか丁寧に検証すべきですが、十分な検証が行われていません。

 また、2割、3割負担の対象者は、政府が国会審議を経ずに決められることになっているため、対象者が拡大していく恐れもあります。法案の審議では、2割負担に引き上げた影響の検証を丁寧にすることや、対象者が拡大しないように歯止めをかけることが争点となっています。

 さらに安倍政権は、介護保険給付を中重度者に重点化するとの観点から、軽度者に対するサービスを縮小することを検討しています。軽度者の介護サービスの利用機会が減少すれば、要介護状態を悪化させかねません。その結果、重度化してしまった要介護者が他の介護保険サービスを利用するようになり、財政負担の増大を招く恐れがあります。中長期的視野に立って検討しなければ、本末転倒の事態が起こりかねません。

家で介護ができなくなったら、
施設に入所できるの?

 14年3月時点で、特別養護老人ホームに入れずにいる待機者は約52万人に上りました。介護が必要な人を優先させるため、15年には新たな入所資格が原則要介護3以上に厳格化されました。また、スタッフがいないために、ベッドはあるのに利用者を受け入れられない特別養護老人ホームが少なくないとの調査結果も報告されています。

 入所条件が厳格化されても、16年4月時点の待機者は約36万人に上っており、特養の入所待ちを減らすため、介護職員の人材確保が急務です。

新しいタイプの介護施設が
できると聞きましたが…。

 老人福祉法が改正され、1973年に老人医療費が無料化されたことに伴い、施設の代わりに病院を利用することが進みました。家庭の事情で自宅にもどれない高齢者の「社会的入院」です。2000年に施行された介護保険法では、長期にわたり療養を必要とする要介護者が入所する施設として介護療養病床が位置付けられました。しかし、医療療養病床と介護療養病床利用者の状態に明確な違いはなく、介護保険が適用される介護型を老人保健施設等に転換させた上で廃止し、医療保険適用の医療型の病床を削減することとしました。

 廃止期限の延長にもかかわらず、いまだに転換が進んでいません。

 今国会の政府提出法案では、廃止期限を6年延長し、「日常的な医学管理」や「看取り・ターミナル」等の機能と、「生活施設」としての機能とを兼ね備えた新たな介護施設(「介護医療院」)を創設することとしています。

「介護崩壊防止法案」を提出

 民進党は3月22日、要介護者の地域生活の継続、生活の質の維持向上、介護離職の防止、介護職員等の人材確保を図るため、2割負担の対象者の拡大防止措置、軽度者に対する介護サービスを将来にわたり全国で十分な内容と水準で提供されるようにすること、介護職員の賃金を政府案に上乗せして月額1万円引き上げること、18年度の介護報酬改定で15年度の改定で引き下げられた影響を勘案すること等を盛り込んだ「介護崩壊防止法案」を提出しました。


※ 65歳以上の高齢者が負担する保険料


(民進プレス改題24号 2017年4月21日号より)

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