空き家問題への取り組み



一番危ないのは街中の物件
災害に備え対策推進を

 空家等対策の推進に関する特別措置法の施行から2年、現場での取り組みはどう進み、課題は何か。全国土地家屋調査士政治連盟の横山一夫会長、日本土地家屋調査士会連合会の岡田潤一郎副会長、愛知県土地家屋調査士会の伊藤直樹会長、「次の内閣」ネクスト国土交通大臣の黒岩宇洋衆院議員に語っていただきました(聞き手は大塚耕平広報局長)。

利活用には耐震補強が必要

 岡田 特措法施行後、自治体に設置された対策協議会や打ち合わせ会等で土地家屋調査士会(単位会)※1がメンバーとなって活動しています。空き家になる原因の一つは相続の未了であり、法務省、司法書士会連合会、土地家屋調査士会連合会の3者が一体となって、相続登記の促進等に向けた啓発活動を行っています。
 伊藤 空き家問題はそもそも、台風や地震などで建物が倒壊した際に、周囲に被害を与えたり、緊急輸送道路を塞ぐことがないように撤去しましょうというもの。しかし、建物が倒壊する恐れがあるかどうかといった診断以前に、所有者が分からないケースが非常に多いというのが実態です。
 危険な「特定空家等」(※2)については勧告・命令を出して解体を進めていくことが必要ですが、一方で利活用も重要です。愛知県の犬山市では、犬山城の前のシャッター通りに商売をやりたい人たちを誘致、今では若い人たちが飲食店等を出店して街が活性化しています。
 横山 利用価値のある空き家もありますが、現実には倒壊寸前だったり、ごみ屋敷化しているところも多い。建物があるとホームレスが住みついてしまう懸念もあります。
 岡田 危ない建物は壊すのか、耐震補強に補助金を出して新たに人を呼び込むのか。そこを見極めなければいけません。

空き家を解体したスペースで保育所を

 岡田 法律ができた成果としては、相談会の開催など個別に報告をいただけること。「空き家を活用したい」「ママが集う場所を作りたい」といった声が上がっています。こうした現場の生の声を次の取り組みに生かしていきたいと考えています。
 伊藤 一方で、この法律で難しいのは、「特定空家等」の引き取り手がいないこと。所有者が相続を放棄したら、では誰が除去等するかということになります。
 黒岩 国がお金を出して除却する仕組みもありますが、ミニ公園など公のスペースにしないといけない。利活用・除却のシステムを考える必要がありますね。
 伊藤 要するに、街中の空き家が一番危ない。街のど真ん中で災害が起きたら大変ですから、指導に応じない土地所有者の空き家は解体して、ある程度の使用料を支払う形で例えば保育所などをつくってほしいです。
 黒岩 そういうことこそやっていく必要がありますね。
 岡田 私たち土地家屋調査士は、現地・現場へ赴く仕事です。そこではご近所の方と必ず会い、普通では得にくい所有者や空き家の情報を入手します。こうしたデータを集約し、空き家バンクなど地域での取り組みにもっと参画すべきだと考えています。
 黒岩 空き家の特定だけでは解決にならないという厳しい現状がよく分かりました。
 横山 取り組みを広げるにはまず協議会をつくることが大切だと訴えていますが、県単位で活発な動きをしている都市部がないとなかなか難しいのが実情です。
 大塚 自治体議会では議会ごとにさまざまな分野の決議を行います。決議として空家等対策の推進を求めていくことも一案です。決議の内容検討やその後の施策にぜひ参画していただくなど、先生方のご協力をお願いします。

空き家対策の現状


〈政策解説〉空き家対策の現状

 空き家の増加が社会問題化するなか、この状況を打開すべく2014年の第187臨時国会で空家等対策の推進に関する特別措置法が全会一致で成立しました。
 総務省の統計によると、13年時点で全国の空き家の総数は820万戸、空き家率は13・5%。このうち「賃貸借または売却用の住宅」(460万戸)等を除いた長期の不在や今後取り壊し予定などの「その他の住宅」(318万戸)はこの20年で2・1倍に増加し、これが景観や防災面等から問題となっています。都道府県別の空き家率は、全体では別荘などのある山梨県、長野県が多いですが、主に問題となっている「その他の住宅」でみると鹿児島県、高知県などで高く、西高東低の傾向にあります。
 15年5月に特措法が全面施行され、市町村は、国が定めた基本指針に即した空家等対策計画の策定や協議会を設置することとなり、措置実施のための立ち入り調査や空家等の所有者等を把握するための固定資産税情報の内部利用等、管理不十分で放置することが不適切な空家等(特定空家等)に対する措置(助言・指導、勧告、命令、行政代執行)が可能となりました。
 国土交通省・総務省調査によると調査対象の1741市区町村のうち今年度中には約55%の871市区町村で計画が策定、約37%の636市区町村で法定協議会が設置されます(17年3月31日時点の速報値)。国交省の方針としては、「空き家は利用できるものは利用し、除却すべきものは除却する」。国は市町村が行う対策が円滑に実施できるよう財政支援措置と税制措置を講じていく立場です。 
 特措法施行により空家等の除却は進む一方で、国交省が今後の課題として指摘するのが流通を中心とした利活用です。民間のノウハウや力を生かした、地域全体での対策の必要性を強調します。民間企業や、市町村と民間企業との連携した取り組みを進め、自然体でいくと25年には約500万戸に上るとみられる「その他の住宅」を400万戸程度まで抑制したいと、野心的な目標を掲げています。

※1 土地家屋調査士会(単位会) 法務局または地方法務局の管轄区域ごとに設立(各都府県に1つずつと北海道に4つの合計50会)

※2 「特定空家等」 ・倒壊等著しく保安上危険となる恐れのある状態・著しく衛生上有害となる恐れのある状態・適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態にある空家等のこと

(民進プレス改題26号 2017年6月16日号より)

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