臨時国会で最大の争点の1つが「年金カット法案」だ。自公政権は、この法案とともに、民主党政権が主導した年金受給資格期間の10年への短縮のための「年金機能強化法」の改正案とを一括して審議しようとしている。両案の提出背景、内容、論点は異なり、一緒に審議すべきでない。

現行の公的年金制度

 わが国の公的年金制度は、日本国内に住む20歳以上60歳未満の全ての人が加入する国民年金(基礎年金)をベースとして、民間サラリーマン、公務員等が加入し基礎年金に上乗せして報酬比例の年金が給付される厚生年金からなる2階建ての制度体系となっている。
 国民年金の加入者は、所得の多少にかかわらず、毎月定額の保険料を納付する。厚生年金の加入者は、給与に保険料率を乗じて計算した保険料を労使折半で負担する。その配偶者の保険料は、厚生年金制度が負担するため配偶者本人の保険料負担はない。国民年金、厚生年金の受給資格要件は、保険料の納付期間が25年以上等となっている。

年金機能強化法

 公的年金をめぐっては、非正規雇用の若年低所得層の増加や年金制度への不信から国民年金保険料の未納者が増え、国民年金の空洞化、無年金・低年金問題への対応が喫緊の課題となってきた。
 自公連立政権から民主党政権になり、無年金・低年金対策の議論が進み、2012年2月に「社会保障・税一体改革大綱」が閣議決定し、3月に「年金機能強化法案」が国会に提出された。6月に民主、自民、公明の3党は同案修正で合意し、8月に①年金の受給資格期間の25年から10年への短縮②短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大等を盛り込んだ「年金機能強化法」が成立した。


年金機能強化法改正案

 ところが「年金機能強化法」の年金受給資格期間の10年への短縮は、その施行日が消費税率10%への引き上げ時と規定されているため、自公政権の2度にわたる消費税再増税の延期により、法律の規定に従って延期となった。
 こうした中、今国会に年金受給資格期間短縮の施行日を消費税率10%引き上げ時から2017年8月1日に改める改正案が国会に提出された。民進党は民主党政権時代から無年金者を減らすための施策として年金受給資格期間の短縮を立案した経緯から改正案の必要性を認めているところである。

年金カット法案

 自公政権が先の国会に提出し継続審議になっている「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案」、いわゆる「年金カット法案」の最大の問題は、年金額の改定ルールが変わり、受け取る年金が大幅に減る可能性があることだ。現行制度では、すでに年金を受給している高齢者の年金は、原則的に物価に合わせて増えたり減ったりする物価スライド方式を採用している。
 ところが新たなルールでは、物価が上がったのに賃金が下がった場合、年金が引き下げられる。これでは年金だけで老後を支えられず高齢者の貧困問題が深刻化する。

年金カット法案をめぐる論点

 衆院予算委員会で質問に立った民進党の井坂信彦議員は、「年金カット法案」の影響について10年で年金が5・2%減少するとの試算を示した。さらに玉木雄一郎議員は、その試算をもとに2014年度のモデル年金額に当てはめ、国民年金で年間約4万円、月額3300円減り、厚生年金で年間約14・2万円、月額1万1800円減るとの試算を明らかにした。
 ところが自公政権は、これだけ年金が減額する可能性があるにもかかわらず、試算を一切していないことから、民進党は「政府が試算を出さないのは大変問題であり、試算を出すべきだ」と追及している。また、与党がこの問題が多い「年金カット法案」と年金受給資格期間短縮を内容とする「年金機能強化法改正案」を一括して審議しようとしているため、民進党は別々に審議すべきだと迫っている。

「新ルール」で年金が大幅に減るおそれ 玉木雄一郷議員作成資料



(民進プレス改題14号 2016年10月21日号2面より)

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