TPP(環太平洋パートナーシップ)協定は今国会での重要なテーマであり、今後の国民生活に大きな変化をもたらすことが予測される。安倍政権が進めようとしている今回の協定はどんなものか、民進党が抱く懸念、党としての提案をまとめた。

 TPPとは、環太平洋地域で貿易や投資の自由化を進めるとともに、さまざまな規制やルールを統一することによって、国境を越えたヒト・モノ・カネの動きを活発にしようとするものだ。参加国は、ベトナム、シンガポール、ブルネイ、マレーシア、日本、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、米国、メキシコ、ペルー、チリの12カ国。

 TPP協定は、貿易の面で原則として全項目の関税を撤廃する方向を基本としている。高いレベルでの貿易自由化により、日本では、輸出産業にはメリットが期待される一方で、国内農業にとっては安価な農産物の流入で打撃を受ける可能性が懸念されている。

自民党ポスター

自民党ポスター

「TPP断固反対」のポスターを掲げた自民党

 日本では、民主党政権下でTPP交渉への参加を検討し、関係国との協議に入る旨を表明したが、正式な交渉参加に至らないまま、2012年12月の第46回衆院総選挙の結果を受け民主党は下野することとなった。この総選挙で自民党は、「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対する」と公約に掲げ、「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」と記された自民党のポスターが各地に貼り出された(上参照)。しかし、政権の座についた安倍内閣は、選挙からわずか3カ月後の翌年3月、「聖域なき関税撤廃を前提としないことを確認した」と述べ、交渉への参加を正式に表明した。
 交渉参加表明を受けて衆参両院の農林水産委員会では、農林水産分野の重要5項目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)について「除外又は再協議の対象とすること」「重要5品目などの聖域の確保を最優先し、それを確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとすること」等を内容とする決議を同年4月に行った(表参照)。
 その後、TPP協定交渉は、2015年10月の米国アトランタでの大筋合意を経て、本年2月に署名式が行われた。安倍政権は3月に本協定と関連法案を国会提出した。

衆院農林水産委員会決議

衆院農林水産委員会決議

経済連携は積極的に進めるべき

 民進党は、輸出と投資の拡大により国富を増やし、輸出・投資関連企業だけでなく、わが国の生活者、消費者に恵みをもたらす観点から、高いレベルの経済連携を積極的に進めるべきとの立場をとっている。先の参院選挙の「民進党政策集2016」では「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の道筋となっているTPPなどの経済連携を推進する」旨を明確にしている。一方で、農業の国内生産力を高めることは、これに従事する農業者だけでなく、新鮮かつ安全な食べ物を求める全国の消費者にとって大きなメリットにつながる。加えてわが国の食料安全保障の観点や、農山漁村の人口が維持されることによって自然環境や国土が保たれ、地域経済の振興や地域文化の維持が期待されるなど、さまざまな多面的効果が期待されることも忘れてはならない。
 よって、TPP協定については、わが国の成長をさらに推し進めるために必要な枠組みという基本認識のもと、国益や消費者の視点から、どのようなメリットが得られ、また守られなければならないものがしっかり守られているか、その中身を十分に分析し、見極めることが必要だ。

今回のTPP協定で国益は守れない

 今回のTPP協定を検証すると、その中身は、極めて問題が多い。
 まず自動車分野について米国向けに輸出される乗用車は、14年間もの長期間にわたり現行の関税率が維持され、その後に段階的に削減されるが、撤廃までには25年もかかる。さらにトラックに至っては、29年間も関税率が維持されるなど、関税削減や撤廃まで、期間が極めて長いことが特徴だ。TPP交渉参加に当たって安倍政権は、自動車分野だけを早々に日米2国間で先行協議させ、その結果、これら長期間、関税を維持する条件をのまされることとなった。農業分野の交渉を開始する前に米国にこのような約束をさせられてしまったことは戦略上のミスで、わが国の国益を損なっていると言わざるを得ない。
 また農業分野のうち、コメについては、現行の関税率(1キロあたりの関税341円)は維持されるものの、現行のミニマムアクセス枠に加えて新たに無税で輸入される特別枠が7・84万トン設定されることとなった。これをはじめ、農産物重要5項目は、その多くで関税の撤廃・削減や、関税割当(特定の枠を設けて無税または低関税とすること)の設定がなされている(左図参照)。これは、2013年の衆参農林水産委員会決議に、真っ向から違反していることは明らかだ。

TPP協定の農林水産分野の重要5項目の扱いについて

TPP協定の農林水産分野の重要5項目の扱いについて


 すなわち、今回のTPP協定の中身は、わが国として攻めるべき分野では十分なメリットが得られていないばかりか、守らなければならない分野では相当の譲歩を余儀なくされているのが実態だ。妥協と譲歩により、わが国の国益が損なわれた。

安倍政権はTPP承認に前のめり

 2013年の衆参農林水産委員会決議では、「国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行う」旨も規定されていた。国益を守るには、交渉でわが国がどのような利益を主張したのかを検証することが重要だが、政府は、情報の公開を求める民進党の主張に対し、「交渉に関わることは答えない」という回答に終始し、日付と表題以外は全て黒塗りにした「ノリ弁」とも称された「交渉経緯メモ」を示した(右図参照)。安倍政権は、情報公開の責任をも放棄していると言わざるを得ない。
 現時点で明らかなのは、TPP協定でわが国にどのような利益があるのか全く不明なまま、衆参の農林水産委員会が重要5項目を守るべきとした国会決議がないがしろにされ、また自動車や農業をはじめとする全項目で妥協と譲歩を重ねたことだ。にもかかわらず政府・与党は、生活者や農家の声を真剣に受け止めず、ただTPP協定承認に向けた前のめりの姿勢を改めようとしない。安倍内閣によるこのようないい加減なTPP協定について、民進党は、到底賛成することはできない。


(民進プレス改題14号 2016年10月21日号より)

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