TPP協定が日本農業に与える影響について、徳永エリ・ネクスト農林水産副大臣に聞いた。

徳永えり参院議員

ネクスト農林水産副大臣

徳永えり(とくなが・えり)参院議員

 TPPはニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国でスタートした多国間FTAが基盤となっている。ここに米国が参加し、投資と金融サービスという米国が得意とする分野が交渉議題となったことから、TPPはそれまでの貿易協定とはまったく違うものになってしまった。その目的は、関税の撤廃だけではなく、非関税障壁の撤廃だ。日本では農業への打撃、そして食の安全・安心や医療保険、知的財産などへの影響を懸念する声が大きい。

 TPPは、大企業が新たなマーケットを求めて海外に進出し、利益を得るために、それぞれの国の国民の、いわば安心を守っている法律や規則を企業の都合で変えてしまうというもの。企業の、企業による、企業のための貿易協定だ。
 交渉で、何を攻めて、何を守るか、何を譲るかはそれぞれの国によって違ってくる。参加国に食料自給率100%を超える、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった農業大国がそろうなか、食料自給率39%の日本が、農業分野で譲る者としてターゲットになった。衆参の農林水産委員会の決議で政府は「重要5項目を守る」としていたが、結果的には重要5項目の約3割の関税を撤廃、関税削減も含めると無傷のものはない。農林水産物全体では約8割の関税を撤廃したことになる。企業の利益獲得のために農業を、国民の安全保障を譲ったのだ。
 7年後の見直し協議規定もあって、関税やセーフガード等の見直し協議の要請があれば日本は応じなければならないとしている。国会で質問すると、「再協議を求められても日本に不利な合意をする必要は全くない」と政府は答えるが、なぜ日本だけ見直し協議規定があるかを考えると、「今すぐは譲れないが、7年経ったら撤廃を考えてもいい」と思わざるを得ない。
 安倍新農政改革が行われ、安倍総理は「マーケット・インの発想」と言っているが、そこに既存の農業者の姿はない。マーケットが必要とするものを作って高い価格で販売し、「強い農業者」だけが所得を増やせばいいという発想で、私たちが民主党当時から行ってきた土地利用型の農業を守ろうというものではない。

国産米の市場はどんどん失われる

 コメへの影響はとりわけ深刻だ。まずSBS米の価格偽装問題がある。実際に市場に流れている価格よりも高く見せかけていた疑念があり、TPPによる米価への影響はないとした政府試算は根底から揺らいでいる。民進党は試算の出し直しを求めているが、政府はかたくなに拒んでいる。
 7年目の見直し規定も問題だ。今は枠外関税率が778%と高く、ミニマムアクセス米以外のところからは年間約1千トン程度しか入ってこないため、国産米にほとんど影響がない状況だが、枠外関税率の見直しや撤廃が行われればどんどん入ってくる。現在、コメの消費の約30%が中食・外食に流れているが、安いコメが海外からどんどん入ってくれば、企業はコスト削減のために当然それを使う。こうして国産米の市場はどんどん奪われることになる。

「地域や伝統・文化を守る」「食の安全を守る」

 既存の稲作農家はコメを作り続けることができるのだろうか? TPP対策として政府が進めている農政改革は企業参入、イノベーション、6次産業化、輸出の拡大と経済的な側面が強く、農村地域・伝統や文化、国民の食の安全を守るという重要な視点が抜け落ちている。
 わたしたちは農業者戸別所得補償制度を民主党時代に創設し、10アールあたり1万5千円の交付金で稲作農家の営農を支えてきた。稲作農家の所得も増え、後継者もできた。しかし、自公政権は現場の声を無視し、この制度の廃止を決めてしまった。TPPによって日本の農業にどのような影響があるか、安倍政権の農業改革で既存の農家や地域が守れるのか、取り返しのつかないような事態にならないよう、慎重な議論が必要だ。

コメへの影響に関する政府見解

 コメに関する合意では、現行の国家貿易制度や枠外税率を維持した上で、米国、豪州にSBS(※1)方式の国別枠(計7・84万トン)を設定。これに対し政府は、「輸入米の数量の増加が、国産米の需給や価格に与える影響を遮断するため、新たな国別枠の輸入量に相当する国産米を政府が備蓄米として買い入れることから、国内産米のこれまでの生産量や農家所得への影響は認めがたい」として、これらの影響をゼロとする分析結果(下表参照)を発表した。
 しかし、国産と競合する業務用米を中心に安価な輸入米が流通することで、米価全体が下落するのではないかと不安視する声は従来からあり、そうしたなかSBS米に関する米価偽装疑惑が発覚した。輸入業者が卸売業者に調整金を渡すことで、実際には卸売業者が買受申込価格より安く輸入米を流通させていたとすれば、「コメへの影響はゼロ」とした政府試算は全く異ってくる。

TPPによる農林水産物への影響に関する政府試算(表)


安倍自民党の対応

 「『聖域なき関税撤廃』を前提とする限り、TPP交渉参加に反対します」。これは2012年12月の衆院選の自民党の選挙公約の一つ。そして「ウソつかない。TPP反対。ブレない」というポスターを自民党は各地に貼り巡らせた。しかし、安倍政権が行った交渉の結果、「聖域」と言ってきた重要5項目の「コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物(砂糖)」のどれも関税撤廃の除外対象になっていない。交渉の結果、日本がTPP締約国から輸入する農林水産物の81%について関税が最終的になくなる。重要5項目についても29・7%で関税が撤廃される。

TPP「無償の品目はゼロ」

TPP「無償の品目はゼロ」

牛肉・豚肉

 牛肉は現行38・5%の関税をTPP発効後すぐに27・5%に、その後さらに段階的に引き下げ、16年目に9%と現行の4分の1になる。豚肉は現行で安い豚肉に1キロ当たり482円の関税をかけているが、TPP発効後すぐに125円に引き下げ、10年後には50円と、現行の10分の1になる。

TPP「大筋合意」主な内容

TPP「大筋合意」主な内容


(民進プレス改題14号 2016年10月21日号より)

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