日本や米国をはじめとする12カ国が2月4日に署名したTPPは、貿易を活発にするため関税を原則撤廃することを理念に掲げている。これによって日本の経済成長が促されると期待される一方で、食品安全や医療などの国内制度、農業などの国内産業に深刻な影響を及ぼすことも懸念されている。ここでは食品安全面の問題点を取り上げる。

TPP

















  食に関するメリット 関税の削減・撤廃等により輸入農産物の価格が低下し、消費者や食品産業等が恩恵を受ける。バターの輸入枠の設定により国内の品不足が緩和される。食品輸入の障壁となっているルールについて改善を求めることができる。食品分野の海外展開を後押しするインフラやルールが整備される。


食に関するデメリット

 農水省の試算によれば、TPP発効後、食料自給率は現在の39%から27%まで下がる。この下がった分だけ輸入食品が増え、安全性に問題のある食品の輸入が増加する可能性もある。添加物の残留基準等、食品安全に関する基準や規制の緩和を求められる可能性もある。輸入食品の増加によって日本の食品輸入の検査体制が追いつかなくなる懸念がある。


ダブルスタンダードの見直しが不可欠

 

玉木雄一郎衆院議員

玉木雄一郎衆院議員

 玉木雄一郎衆院議員は10月17日、TPP特別委員会でTPPが及ぼす食品安全面への今後の影響について「輸入牛豚肉が増えていく。その際に価格がどうなるかも大事だが、その牛肉や豚肉がどう肥育されたのかは、食の安全の観点から非常に重要だ」と指摘。特に強調したのが、米国、オーストラリア、カナダ等のTPP締結国から輸出される牛豚肉には、日本で使用が禁止されている肥育ホルモン剤が投与されている問題だ。

 日本をはじめEUや中国、ロシアがホルモン剤を禁止している理由について
「それを投与した肉を食べることが、乳がんや卵巣がん、あるいは前立腺がんと関係しているという調査がある。逆にEUが1989年にこうしたものを使わないと決めた後、EU各国で乳がんの発症率が下がっていることを示す調査もある」と説明。こうしたEUの規制を受けてオーストラリアは、EU向けの輸出牛肉は肥育ホルモンを使わないように育て、その証明とともにEUに輸出していると指摘した。ところが日本では、国内での使用を認めていないが、ホルモン剤を使った牛豚肉の輸入を認めていることから「こうしたダブルスタンダードを改めるべきだ」と山本農水相に迫った。


肥育ホルモン剤の安全基準は問題だ

 さらに肥育ホルモン剤の安全基準にも問題があるとした玉木議員は、「日本では、いわゆる国際的な基準であるコーデックス(※)に照らして、食品中の残留基準の範囲内であれば、輸入牛豚肉を安全としているが、日本癌治療学会に提出された論文には米国産牛肉には、和牛と比較して脂身で140倍、赤身で600倍もの肥育ホルモン剤の残留の疑いがある」という調査結果があると紹介し、「日本独自で調べて、国民の健康を守るような規制をきちんとやるべきだ」と政府に問題提起した。


食品表示法を改正すべき

 また、TPPによって輸入食品が増えた場合、現行の食品表示法が消費者に選ぶ権利を十分に与えていないことも食品安全面での問題を拡大すると指摘した。「外国の牛肉や豚肉を買おうとすると、表示義務がないので、ホルモン剤を打ったのか打ってないのかを日本の消費者は判断するすべがない。輸入を禁止しないまでも、せめて表示義務をしっかりかけて、これから輸入が増えてくるのであれば、消費者に選択の余地を与えるよう食品表示法を改正すべきだ」と安倍総理に食品安全行政の転換を求めた。


防かび剤の表示撤廃は認められない

 

岸本周平衆院議員

岸本周平衆院議員

 岸本周平衆院議員も10月17日の特別委員会で、米国政府と日本国政府が2月4日に合意したTPP協定の内容を補完する書簡をもとに、食品安全に関する安倍政権の見解をただした。その書簡の一部に「厚生労働省は収穫前及び収穫後の両方に使用される防かび剤について、農薬及び食品添加物の承認のための統一された要請及び審議の過程を活用することにより、合理化された承認過程を実施する」との記述があると紹介した。

 その記述の背景について「日本で農薬は収穫前しか使えず、収穫後の農薬の使用は禁止されている。ところが米国で収穫した農産物、例えばレモンを日本に輸出する場合、イマザリルという農薬をかけないとかびが生えるため、収穫後でも食品添加物という名目で(国内で禁止されているが)使用を認めている」「さらに米国はイマザリルと書いてあると売れないから、その表示義務をなくすことまで要求している」と説明した。
 そのうえで、このような経済的利益の追求のために日本国民の健康を害することもいとわないような米国の要求に対して「あまりにも一方的で、わが国があたかも米国の植民地であるかのような内容になっている」と問題視するとともに、これを受け入れた安倍政権の対応を強く批判した。

2016年2月4日日米政府間の書簡

2016年2月4日日米政府間の書簡



USTR「2016年外国貿易障壁報告書」

 米国通商代表部(USTR)は3月31日、「2016年外国貿易障壁報告書」を米国連邦議会に提出した。岸本議員の指摘を裏付けるように同報告書の中で、収穫前・収穫後に使用される防かび剤について「米国の要求に基づき日本は、農薬及び食品添加物の双方に使用される防かび剤を含む農業化学物質の審査手続きを簡素化するが、米国は、日本が収穫後の防かび剤で処理された製品について、各化学物質の記載等の表示の義務を課すことを憂慮しており、日本政府とともに作業を続けていく」とし、日本に対して収穫後の農薬の食品添加物表示の撤廃等を強く要求している。

USTR「2016年外国貿易障壁報告書」

USTR「2016年外国貿易障壁報告書」


(民進プレス改題14号 2016年10月21日号より)

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