【対談】過労死等防止推進基本法「過労死は他人事ではない。実効性のある法整備を」

 国に過労死の防止対策を進める責任があると明記し、過労死のない社会を目指す「過労死等防止推進基本法」(以下、過労死防止法)施行から2年、今あらためて過労死が社会問題化している。「過労死ゼロ」に向けて必要なことは何なのか。「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子代表と「過労死防止基本法制定を目指す超党派議員連盟」の会長代行でもある泉健太衆院議員が意見を交わした。

働く環境は変わっていない

「全国過労死を考える家族の会」寺西 笑子(てらにし・えみこ)代表

「全国過労死を考える家族の会」

寺西 笑子(てらにし・えみこ)代表

 寺西 「過労死防止法」が制定されたことで、過労死問題の周知・啓発活動や相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援という側面では一年一年広がりを実感しています。しかし、罰則規定のない法律なので働く環境は何も変わっていない。過労死も減らない、過労死で家族を失った方々からの相談も減っていません。特に最近では若い人の自死や過労死が増えています。

 若年層の過労死では、入社や転籍後わずか数カ月というケースも多い。十分な新人研修を受けないまま即戦力として重いノルマを課され、成果が出ないことに責任を問われる。劣悪な環境に追い込まれ心が病んでしまうのです。
 電通の事件(※1)にしても、法律が制定されているのにと思うと本当に心が痛みます。私たちは命を救うために法律作りに動いたわけですから。法律があるのに命を救えなかったというのは、すごくつらいですね。

泉 健太(いずみ・けんた)衆院議員

泉 健太(いずみ・けんた)衆院議員

  「過労死防止法」は当初、「世の中から過労死をなくす」という強いメッセージを発信する基本法にしたかったのですが、与野党で調整を進める過程でまずは実態調査からということになりました。電通の事件も含めて、じくじたる思いのなかで、なんとか1件でもこうした事例を防ぎたいと取り組んでいます。法律はどうしても後追いのような形になってしまいますが、白書などによって業種別、会社の規模別にどのような傾向があるのか、どんな業種で労災認定が多いのか、労働環境の整備ができていないのかといったことが少しずつ見えてくるようになりました。

 寺西さんたちが活動をされ「過労死防止法」をつくり、さらに今、そのときは口にも出せない雰囲気だった36協定(※2)の見直しにまできたというのは大きな前進です。本当に市民、当事者の側から運動を起こして政府や行政、立法府を動かすことができるという、市民立法という意味で大きな実例だと思っています。

 われわれ民進党は、現場で苦しんでいる方の声をしっかり受け止めて立法化し、政府に要請していく。国会議員や自治体議員が窓口となり、議会や役所に改革や改善を促していく立場で仕事をしていくことが大事だと思っています。

長時間労働者の構成比

長時間労働者の構成比

長時間労働の規制とストレスのない環境づくりを

 寺西 10月に初めて閣議決定された「過労死等防止対策白書」。過労死は四半世紀以上前から社会問題化しており、本音を言えば今さら調査研究かという歯がゆい思いはあります。とはいえ、過労死ラインとされる月80時間を超えて残業をした正社員がいる企業が23%に上るなど、今回の調査結果をさらに掘り下げ、早急に具体的な対策を講じてほしいと思います。
  こうした実態を踏まえた対策として、問題が突出しているところに集中的に対策を講じていくことが重要です。勤務終了時間から翌日の始業まで、一定の休息時間を保障するインターバル規制の導入や、36協定による労働時間の延長に上限を規定すること。私たちも議員立法として「長時間労働規制法案」を国会に提出していますが、政府が進める「裁量労働制」の対象業務を拡大して労働時間をさらに延ばす方向ではなく、ワーク・ライフ・バランスの推進が必要です。
 また、精神疾患は必ずしも労働時間と比例しない。短い労働時間でも精神疾患に至るケースがあるというデータもあり、パワハラを防ぐなどストレスのない職場づくりを日本全体で取り組んでいく。健康な頭脳、精神状態で仕事ができる環境をつくっていかなければいけません。

仕事に関するストレスの原因

仕事に関するストレスの原因


労働時間管理の厳格化を

 泉 過労死が起こるような無茶苦茶な職場だと、みんなが残業をしているから、やらない自分がおかしいという雰囲気が作られてしまう。そのなかで自分が異常な職場にいることに気づいていない、まだ声を出せていない人がいるわけです。そういう人たちにどうやって危険に気づいてもらうか。今後の課題です。

 寺西 そのためには、社会に出る前の教育課程で過労死や労働法を学ぶことも重要です。私は機会あるごとに「過労死は他人事ではない。正しい知識があればおかしいことに気づく。正しい知識を持って社会に出てください。違法に気づくか気づかないかは、自分の身を守れるか守れないかの境目でもある」と訴えています。

 周りのみんなが働いているなかで自分だけ「はい、帰ります」とは言えません。残業が当たり前の日本の働き方、悪しき慣習を変えていくことが必要です。それが一番難しいのですが。

  SOSの声を受け止める体制の拡充も必要です。「11月は過労死防止月間です。おかしな働き方だと思う人は『過労死110番』へ」とフェイスブックにアップしたのですが、ある方から「この110番は土日はやっていないんですよね」と言われました。確かに、体制を拡充するためには過労死防止に取り組む支援団体に対する支援が必要で、これもまだ足りていません。

 寺西 過労死は他人事ではありません。夫が毎日疲れてヘトヘトになって帰ってきても会社に乗り込むわけにもいかず、温かい食事と風呂を用意することしかできなかった。その結果夫は亡くなってしまいました。私は自分への戒めがあり、こういう活動をしています。

 今まで通りでは何も変わりません。やっぱり労働時間の把握が大事だと思いますので、政府は労働時間の管理を企業に任せるのではなく、不十分な企業に対してはもっと厳しく指導し、ペナルティーも重くしてもらいたいです。

 一気に変えることは難しいですが、これからも泉議員をはじめ議員の皆さんの力をお借りしながら地道に私たちの声を届けていく、社会に警鐘を鳴らす活動を続けていくことで改善につなげていきたいと思っています。

  みんな本当は、自分の力を発揮してのびのび働きたいのです。だからこそ喜んで働ける環境をつくっていく。その方がパワーも活力も生まれる国になると思います。寺西さんたちとともに、現場の声を伺いながら、さらに実効性のある法整備を進め、過労死のない社会の実現を目指します。

(民進プレス改題17号 2016年12月2日号より)

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