生活保護世帯の子どもたちは大学など高等教育機関への進学が認められていない。細野豪志代表代行はこの点について1月26日の衆院予算委員会で取り上げ、安倍総理に見直しを求めた。質疑の様子を傍聴席で見守った島田了輔さんは、自身も生活保護世帯で育ち、努力して東京大学への進学を果たしたが、進学までには精神的な葛藤と現実的な苦労とが伴ったという。細野代表代行が話を聞いた。

 細野 経済的に厳しい家庭、1人親家庭、児童養護施設や被災地で暮らす子どもたち、困難な状態に置かれている子どもの支援を行っている特定非営利活動法人キッズドアに行く機会があり、ボランティアに取り組む島田さんと出会いました。ご家庭が生活保護を受けているなかで奮起して勉強し、東京大学に入った。その辺りの話をしてもらえますか。

 島田 中学2~3年のときに友だちに誘われて近くの塾に体験授業に行ったのですが、勉強ができなくて少しばかにされ、負けないぞと取り組んだのが勉強を始めたきっかけでした。すると成績が伸びて、県内では進学校に当たる高校に合格しました。勉強を始めるまでは高校進学のことなども全然考えていませんでしたが、勉強が好きになったこともあって、これから先は学問をやりたい、大学に行くしかないと思ったのです。

 細野 家庭が生活保護を受けていると自覚したのはいつですか。

 島田 受給は中学1年から。理解したというよりも知ってはいました。しかし、生活保護の壁にぶち当たったのは勉強し始めてから。大学に行こうと、これまで思ってもみなかった方向に人生を進めようと思ったとき、障壁がたくさんあると実感しました。

 細野 例えばどういう問題がありますか?

 島田 まず、大学進学にかかるお金の問題です。

 細野 受験勉強のための、塾などのお金ですか。

 島田 はい。参考書は先生から、過去問は先輩からいただいたりして。コピーは、学校でやらせてもらったりしました。また、入塾金・授業料なしの特待生になれたので実習室でコピー機やパソコンも使えたので、本当に助かりました。

 細野 勉強ができるから東大にいってみなさいとか、こうしたら未来は開けるといった話は誰かからありましたか。

 島田 ないですね。どちらかと言えば否定的な意見が多かったです。生活保護世帯だからかもしれませんが。

 細野 それを乗り越えたのは、人生を切り開きたいという思いですか?

 島田 偉そうかもしれませんが「僕がやらなければ誰がやる」という気持ちもありました。まわりには生活的に苦しい友達もいて、生活保護世帯は僕以外にもいたのかもしれませんが、そういう子が諦めていくのを目の当たりにしましたので、ここで僕がやめてしまうともう世に出るべきものが出なくなってしまうという気がしました。

 細野 出身は高知でしたね。受験で上京する際の飛行機代や宿泊費、受験料等で10万円以上かな。そのための貯金は大変だったでしょう?

 島田 はい、かなり厳しかったです。食べないと死んじゃうので受験以前に食べるために使うしかない。進学に向けた金策をどうしようかといつも考えてました。お金の話は解決できないと、精神的に折れてしまう。理屈ではできるかもしれませんが、お金の問題が目の前にあると、不可能に近い状況に精神的に追い込まれます。

やる気と能力があれば
大学進学できる制度を

 細野 多くの生活保護家庭の子どもたちが、事実上、あきらめているケースが多いということですね。今は改善されたと聞きますが、貯金があると生活保護費を減らされた時期もある。受験料を貯めること自体が大変だったわけですね。

 島田 そういう決まりだったようですね。親からは「あなたは、そもそも無理なことをしようとしている」と最初は言われました。

 細野 一番大きな壁は世帯分離ですよね。生活保護家庭の子は大学へ行ってはいけないことになっているので、世帯を分離して、家計を分けたら初めて認められる。そうなると世帯構成員が1人減るわけですから、もらえる生活保護費が減る。子どもとしてはこれは精神的にはきついですね。

 島田 そうですね。仕送りとかを僕が何も要求しなくても僕が大学に進学するだけで生活保護費がマイナスになる状況を親に与えてしまう。本当に自分の体の一部を切り捨てて前に進むような心持ちで、世帯分離をした感じでした。

 細野 数学者を目指して今度理学部に転部すると聞きました。

 島田 現在は教養学部文科3類に在学しています。ここを選んだのには理由があります。大学進学の際、奨学金を探しました。学者を目指すとなると就業も遅れがちなので、貸与型では返済がきついと考え、給付型がありがたい、と。見つけた中で最も条件がいい、民間の奨学金があったのですが、対象が文系限定だった。だから文科3類へ。また、実は日本で唯一、文系から理系への転部ができる制度があるのが東大だけでした。

 細野 本当によく頑張りましたよね。

 島田 それほど頑張っているという意識はなかったのですが、生活保護世帯の子どもの大学や専修学校等への進学率が33・4%(※)という数値を見ると、自分がしたことはその意味では大きかったかもしれないと考えるようになりました。

 細野 東大は国立の大学ですから本当は家が裕福だろうが貧しかろうが勉強をやる気があって能力がある人が入るのが一番いいのですが、今の東大は必ずしもそうではない。ものすごく豊かな家庭の子が多い。そういうギャップを感じますか?

 島田 感じるとしか言いようがないですね。生きてきた世界が違うというか、僕たちのような存在は見たことがない。言葉を尽くして説明しても実感を持てない。大きなギャップがあります。

 細野 こうして実名で話してくれたり、塾の講師等を増やせばバイト代も入るのに、キッズドアで子どもたちにボランティアで勉強を教えている。そこにある思いは?

 島田 僕が成功するにしても失敗するにしても後継が続かないと意味がないと思っています。また、僕が中高生時代にちゃんと助けてもらえなかったという意識があります。助けてもらえないのは悔しかったですし、間違っていると思った。自分が今、少しですが誰かを助けられるかもしれない立場にあるわけですから、助けないと昔の自分に怒られるのでそうしています。

 細野 島田君がしっかり頑張ることで次の若者を生み出すことにつながると思います。われわれの仕事は制度を作ることですから、生活保護家庭の子どもたちが大学に行くことを前提にしていない制度ではおかしいと主張し、見直しを政府に求めていきます。

 島田 予算委員会での細野代表代行と安倍総理の質疑を、僕が中高時代ずっと思っていた、これは理不尽だという思いが国会でやっと取り上げられたという思いで見ていました。そして安倍総理からもう少し具体的なコメントが欲しかったというのが率直な感想です。

 細野 たぶん安倍総理はあまり知らなかったと思う。だからここをスタートにしたい。能力のある子が高校卒業だけで働いているケースと、大学や専門学校で勉強して社会に出た場合とを比べると、得られる所得も違う。それが実現できればやがて納税者になってくれる。われわれも頑張りたいと思います。

―――生活保護制度の問題点―――

 生活保護制度は該当する世帯の子どもたちの高校進学までは認めているが、「稼げる人には稼がせる」という基本的な考え方があるため、大学や専門学校等への進学を原則として認めていない。大学や専門学校等への進学を希望する場合は、生活保護家庭とは別の世帯となる(世帯分離という)ことで初めて可能になる。しかし、別世帯になって世帯構成員が1人減れば支給される生活保護費は1人分6万円程度(自治体で違う)が減額となるため、子どもたちは自身の家庭への生活保護費減額の影響を考えて進学を諦めるケースも多い。

(※)大学・専修学校等への進学率は全世帯では73.2%だが、生活保護世帯は33.4%、児童養護施設では23.3%。

(民進プレス改題22号 2017年2月17日号より)

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