高知の宝石珊瑚を支える若手の挑戦と高齢者の力


 水深200mの深海で育まれる宝石珊瑚。アクセサリーとして世界中で珍重される宝石珊瑚の本場が高知県であることはあまり知られていない。世界のトップを走る企業の挑戦とは。

 全国には、地域の経済、産業を支え、人を育て、未来をつくろうとしている人々がいる。高知県で宝石珊瑚の加工・販売を手掛ける、㈱KAWAMURAもそのひとつだ。

 古くは主に地中海などで採取された宝石珊瑚は、交易品として世界中に運ばれ、お守りや宝飾品として珍重されてきた。明治時代に高知県での珊瑚漁が始まると、大きく質の良いものが採れるとして高値で取引されるようになり、今では同県が世界市場をリードする舞台となっている。県内には全国の珊瑚加工業者の9割にあたる約70業者が集まり、原木の総取引額は年間50億円を超える。この伝統ある産業の発展と持続のため、㈱KAWAMURAではさまざまな挑戦を続けている。

若手技術者の育成と
高齢の働き手の活用

 硬度の高い宝石珊瑚の彫刻は難しく、最低でも10年以上の訓練を経た職人でないと価値の高い商品を生み出すことはできない。

 ㈱KAWAMURAの川村裕夫社長は、こう語る。

 「宝石珊瑚の彫刻技術を持った職人は県内に40~50人はいます。その中で名人級の技術を持っているのは2~3人だけです。もちろん、この技術は放っておくと失われてしまいます。私たちのところでも、美術系大学を卒業した社員などをはじめ、若手が技術を継承すべく切磋琢磨(せっさたくま)しています」

 彫刻技術の継承を目指す社員の育成だけではなく、一方では営業戦略を考え販路の拡大を目指すのも若手に任せ、挑戦を推奨している。中でも、海外への販路拡大をめざし、同社はスイスで毎年開かれている宝飾品や時計の国際見本市「バーゼルワールド」に2009年に初出展。商品や実績が認められないと出展することができない世界最高峰の同展示会でも、世界のバイヤーらから高い評価を得るなど、挑戦は確実に実を結んでいる。

 また、㈱KAWAMURAでは女性や高齢の働き手についても積極的に活躍の場を用意している。

 「社員の6~7割が女性です。最高齢者は77歳ですが、外回りの営業をやってくれています。その方の同級生はみんな、『お金があっても退屈でたまらん』と言って、仕事をする彼女のことをうらやましがっているそうです」

 そう語る川村社長だが、実は車いすバスケットの世界では知らない人がいないほどのベテランプレイヤー。動けるうちは現役でいたいと語り、全く年齢を感じさせない。

 「私も70歳ですが、同世代はまだまだ元気。働けるうちは働きたいし、働ける環境を用意し続けたいです」

 こういった㈱KAWAMURAの姿勢について、大石宗・高知県第1区総支部長は語る。

 「宝石珊瑚は原木が十分に高価であり、それを売り買いするだけでリスクなく十分に利益が得られます。1回彫って失敗すると原木の価値がなくなってしまうような世界で、アクセサリーとして加工することは実はかなりのリスクを伴います。そのリスクをとって製品にするという挑戦をしている企業は、現在貴重な存在なんです」

左:宝石珊瑚の原木、右:大石総支部長が持っているのは県知事賞も受賞したネックレス

左:宝石珊瑚の原木、右:大石総支部長が持っているのは県知事賞も受賞したネックレス

資源の乱獲と流出を防いで
持続と発展を目指す

 しかし近年、関係者を悩ませている問題がある。宝石珊瑚の乱獲が横行すると同時に、市場の中心が他国へと移行しつつあるのだ。その対策として川村社長はこう提言する。

 「現在、採取については漁業権さえあれば誰でも採れる状態で、具体的なルールはないも同然です。これではせっかくの産業の土台が崩れ、市場も不確かで信頼性がないものになってしまいます。一度宝石珊瑚の採取を全面的に禁止した上で新たなルールを作り、それに則って持続性と発展性を確保していく道を探るべきだと思います。このルール作りについて、環境問題などへの理解度の高い私たち日本がリードしていかないと、結果的に無秩序な産業となってしまう可能性もあります」

 国内の漁業者を広く巻き込んで理解を得ることが必要となる局面だが、行政の関心は高いとはいえない。

 大石総支部長は次のように話す。

 「例えば高知県の東側だけを見ても、水産の半分を珊瑚が占めている。にもかかわらずマイナーな業界ということもあり、一般の補助金の他には業界全体を応援するような仕組みはできていない。今後は国や県に、さらに目を向けてもらえるような取り組みを進めて行く必要があります」

ニッチトップを守る
㈱KAWAMURAの挑戦

 また、同社で海外への販路拡大を担当する川村秀樹専務は、乱獲を防ぐルール作りの他にも、国の支援があれば宝石珊瑚の市場が拡大できるはずだと語る。

 「例えばドバイなどの中近東の展示会に参加しても、一般のユーザーさんは来てくれるんですが、そこから先のBtoB(※1)や王族の方とのコネクションなどにはつながらないのが現状です。このあたりジェトロ(※2)などにご紹介いただくなどの支援があると良いですね」

 高知県の地場産業でありながら世界をリードする宝石珊瑚にはまだ伸び代が残されている。このようなニッチトップを持続発展させ未来につなごうとする㈱KAWAMURAの挑戦。これこそが日本経済再生のカギとなるだろう。


※1 企業間取引 ※2 独立行政法人日本貿易振興機構


(民進プレス改題24号 2017年4月21日号より)

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