参院本会議で31日、政府提出の「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律案」が審議入りし、民進党・新緑風会から相原久美子議員が質問に立った。
同改正案は、産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図り、農業分野の外国専門人材の受け入れや子育てに係る環境の整備、テレワークの推進などを行うとするもの。
相原議員は、(1)国家戦略特区制度の目的のあり方(2)「加計学園」の獣医学部新設の疑念払拭(3)諮問会議議員の公平性(4)小規模認可保育所の対象年齢の拡大による保育の安全性と質の担保(5)地域限定保育士試験の実施主体の拡大(6)農業分野における後継者対策・人材確保策――等について取り上げ、山本国家戦略担当大臣ら政府の見解をただした。
「国家戦略特区法案では、国家戦略特区に係る重要事項について政府の諮問会議に決断を委ねる『総理主導』の枠組みで、規制緩和を希望する民間有識者を構成員とし、区域計画により影響を受ける地域住民や団体の声を退け、ミニ独立政府のような権限を与えてしまっていることに問題がある」と相原議員は指摘。特区制度の制度設計や規制改革事項の関係省庁との調整、地方公共団体等からの提案のヒアリングを行う特区ワーキンググループでの議論の公開など、徹底的な「見える化」を図るべきとの考えを示した。
加えて、同法の目的である国民経済の発展や、国民生活の向上の達成度を測る評価軸が不明確であり、現状ではお手盛りの評価になっていると言わざるを得ないと批判した。
「加計学園」疑惑をめぐっては、特区担当の内閣府が事業者選定に当たり、総理との関係性が深い人物が理事長を務める加計学園ありきで動いてきたのではと疑われる文書があると指摘され、当時この件を担当していた前川前文部科学省事務次官は「文書は本物」だと証言している。相原議員は、「仮に、総理から直接的な働きかけがなかったとしても、政策決定に当たって行政府内で政治的圧力が働き、忖度(そんたく)が働く状況があるとしたなら、公平・公正な民主的運営がなされていないことになる。担当大臣として疑念を払拭し、あるべき行政執行を司る責務がある」と述べ、前川前事務次官の証人喚問を行い、真偽を明らかにするべきだと求めた。
これに対し山本担当大臣は「特区の指定、規制改革項目の追加、事業者の選定のいずれのプロセスも適切に実施しており、圧力が働いた、忖度があったということは一切ない」と強弁。前川前事務次官の言動の真偽については、「コメントする立場にない」と答弁を避けた。
相原議員は、農業支援外国人の就労解禁についても、諮問会議の議員を務める最大手の派遣会社の取締役会長がこの制度の導入を力説し、農業特区では「特定機関」として、派遣業者が想定されていると指摘。「公平性の観点から見ても、特定の人々の利益のために法の抜け穴を用意するために特区制度が利用されているのではないかとの疑いを抱かせる」と問題視した。
地域限定保育士試験の実施主体を拡大することについては、「拡大して合格者を増やすことよりも、全国で約80万人とも言われている潜在保育士を活用するための処遇改善と雇用の継続施策を講じるべきではないか」と提案。塩崎厚生労働大臣は「処遇改善と合わせて就業継続、離職者の再就職といった支援などに総合的に取り組んでいる。潜在保育士の活用を含め必要となる保育人材の確保に努めていく」などと、抽象的な答弁にとどまった。
相原議員は最後に、「この間、国家戦略特区における指定にさまざまな疑念が指摘されている。政策が一部の利益誘導に使われることは、絶対にあってはならない事であり、国民から選ばれた立法府にそれをただす責務がある」と述べ、質問を締めくくった。