国内でトップクラスのシェアを誇る地球儀メーカー株式会社渡辺教具製作所。人とのつながりによって実現するグローバルな製品づくりと、積極的な地域活動を紹介する。

 地域の経済、産業を支え、人を育て、未来をつくろうとしている人々が全国にいる。埼玉県草加市で地球儀や星座早見盤などを開発・製造する株式会社渡辺教具製作所もその一つだ。
 1937年に創業し、今年で80年目を迎える同社は、日本で初めて本格的な地球儀を製作。人工衛星によるデータを用いた夜の地球儀や地球温暖化の様子を可視化した地球儀、月球儀や火星儀など、新たな製品を開発し、シェア、品質ともに国内トップの地球儀メーカーだ。
 お話を伺ったのは、同社の渡辺美和子会長。95年に夫であり3代目社長であった渡辺浩氏が病に倒れ、4代目社長に就任。地域の支えや3人の息子さんたちの応援もあって子育てと両立、昨年ポストを譲るまでの20年超、先頭に立ち続けてきた。
 「『ミセス渡辺教具』との思いで、『こうした方が』と思うことは何でも実践しました。人事採用の見直しや地球儀の機械生産の導入など社内の改革。経営状態も良くはなかったので、あまり行っていなかった営業活動にも積極的に取り組みました」
 少子化の影響で、メインの卸業者経由での学校販売の需要が減ることは目に見えていたため、新たな販路の開拓が急務。渡辺会長は、天文・科学を趣味にもつ個人や、地球儀をインテリアとして楽しむという需要を見い出し、販売先を広げていった。現在は約3割が学校、7割はデパート・専門店・書店など、大きく2つの販路を確保できているという。

会社にとっても社会にとっても、人こそが最も大切な財産

 コレクションやインテリアといった教具以外の新たな需要を掘り起こせたのは、渡辺教具製作所の品質の高さがあったからこそ。そして、高品質な製品を生み出す社員こそが、最も大切な財産だと渡辺会長は話す。
 「私たちがお客さまに提供しているのは情報の正確さという価値です。地球儀の精度を高めるため、新たな機械の導入などにも取り組んできましたが、使いこなせなければ意味がありません。製品によっては手作業が必要な物もあります。人の技術が求められる場面が多々ある一方、他の社員と連携できる協調性も大切です。だからこそ、人の採用は慎重になります。人材を見極めることは簡単ではありませんが、とても重要なことだと考えています」

社会全体で働く人々の子育てや介護の支援を

 企業と人との関係については、近年「働き方改革」が注目されている。少子高齢化が進み、男性も女性も同等に働くことが当たり前となった現在の状況について、渡辺会長はどのように考えているのだろうか。
 「企業は、男女問わず働いてもらいたいと考えるのと同様に、子育てに対しても男女問わず理解を示さなければいけません。子育ては次世代を育てるということ。たとえば、『子どもの具合が悪いので早退したい』と言う社員がいれば、『育メン』などということではなく男性でも女性でも当たり前に早退できるようにしなければいけません。高齢化社会では親の介護などもあります。こうしたことをしっかり保障してこそ気持ちよく働くことができるのだと思います」
 山川百合子・埼玉第3区総支部長も同様の思いを語る。
 「いま企業では、一生懸命社員一人ひとりの異なる事情に応えようという流れが出てきています。しかし、企業だけが頑張るのでは結局疲弊してしまう。企業が倒れてしまっては社員の暮らしもままならなくなり本末転倒です。だからこそ、『働き方改革』は社会全体で取り組まなければいけない大きな課題であり、政治の面からもバックアップが必要だと思っています」

球面に平面の地図を貼る作業は、集中力を要するため午前中にしか行わない

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要するため午前中にしか行わない

人と人とのつながりが新たな活動を生み出す

 草加市では、地元の製造業を盛り立て、住民に親しまれる企業としてオープンにする施策として「うるおい工房」認定事業に取り組んでいる。同認定を受けている渡辺教具製作所では、その一環として同社2階にミニ博物館「地球&宇宙」を開設。直径64㎝の地球儀や、同社の技術と経験を集約し復興された江戸期にオランダから伝わった最古の地球儀・天球儀のレプリカ、学者から寄贈された鉱物や化石、同社で60年来の歴史を持つ製品・ポータブルプラネタリウムなど、地球を手にし、感じることができる空間となっている。
 「きっかけは、ある大学の先生から鉱物のコレクションを譲り受けたこと。活用したいものの扱いに悩んでいた時、偶然、経済産業省の関東経済産業局の局長さんとお話する機会があり相談すると、経済産業局傘下でつくば市にある地質標本館の館長さんを紹介してくれました。たくさんの方にご協力いただき、このミニ博物館に訪問される方は増えています。また、天文学者の勧めでマダガスカルに皆既日食を見に行ったのですが、そこではJAXAの小惑星探査機『はやぶさ』の研究者と知り合うことができました」
 この出会いをきっかけに、市内にある獨協大学に「はやぶさカプセル」を誘致できたり、月球儀KAGUYA(※)が完成した。
 「地球儀屋としては、子どもたちに地球環境を悪化させないで渡したい」と話す渡辺会長。人を大切にする誠実な思いがあるからこそ、渡辺教具製作所にはさまざまなつながりが生まれる。人の力を生かし、経済活動と地域貢献、2つの取り組みで目指す豊かな未来づくりがあった。

※日本の探査機「かぐや」による月面の詳細な探査情報をもとに製作した月球儀。高さによって色分けがされている。

(民進プレス改題27号 2017年7月21日号8面より)

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