国家戦略特区での獣医学部新設について、「行政がゆがめられた」との疑惑が深まっている。

 安倍総理が「腹心の友」と呼ぶ加計孝太郎氏が理事長を務め経営する、学校法人「加計学園」の獣医学部新設に「総理のご意向」は働いたのか。7月24、25両日、衆参予算委員会の閉会中審査が開かれたが、政府は「記憶にない」「記録がない」を連発、事実関係は解明されていない。あらためて問題の論点等について、党「加計学園疑惑調査チーム」共同座長の今井雅人衆院議員、桜井充参院議員に話を聞いた。

 桜井 なぜ安倍総理に疑いがかかっているのか。獣医学部新設を決定するに至った過程が「加計ありき」で進められたのではないか、それに「安倍総理が関与」していたのではないか、この2点です。

 質疑で象徴的だったのは、安倍総理が、加計学園の獣医学部新設計画について初めて知ったのは、加計学園が国家戦略特区による事業者に選定された、今年1月20日だと説明したこと。誰が聞いても不自然です。

 今井 それにもかかわらず(話を聞いていないと)かたくなに否定するのは、1つ認めるとぼろぼろと崩れてしまうという恐怖感があるのではないでしょうか。関係業者からの供応接待を禁じた大臣規範への抵触を懸念したとの指摘もあります。

学部設置認可前に「加計ありき」で進む計画

 桜井 「加計ありき」の疑いがあると、こちら側は具体的に証拠を提示しているわけですよ。例えば、一丁目一番地で言うと、2015年4月2日に今治市の職員が総理官邸を訪れ、獣医学部系の設置に関する協議を行った記録を今治市は開示している。本来国家戦略特区は内閣府の所掌事務なので、官邸に行くのは異例中の異例です。だから「何で行ったのか」「誰と会ったのか」と尋ねても政府はそれには答えず、官邸への入出記録もないと言い張ります。

 加えて、内閣府と今治市は開学時期の方針が公表される3カ月前から、「平成30年(18年)4月開学予定」と書かれた獣医学部新設のスケジュール表を共有しています。これは同じ時期に獣医学部新設を計画していた京都産業大学にはまったくありません。その他、加計学園が、特区の事業者に認められる2カ月以上前にボーリング調査をさせたり、四国電力に対し電力供給に必要な「高圧受電仮申し込み書」を提出するよう今治市に要請したりと、「加計ありき」を示す証拠が山のようにある。

 今回松野文部科学大臣は、これまで文科省が存否を明らかにしてこなかった「加計学園への伝達事項」と題された文書の存在を認めました。これは、国家戦略特区諮問会議が加計学園の獣医学部設置を認める前に作成されたもので、学園側の構想に対し設置が認可されるよう、文科省の懸念事項を伝える「助言」と読める内容です。つまり、文科省内で開学までのプロセス、イメージを共有していたことを示しています。

 今井 私の知り合いの弁護士は、「裁判だったらどちらが勝つかは明白だ」と話しています。片方は物証を出して主張しているのに対し、もう一方は物証もないまま「違う」と主張している。どちらに正当性があるかは法律論、司法の考え方から見ても明らかだと言われました。

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特区手続きの妥当性は獣医学部新設4条件議論なく

 今井 今回問題なのは、前川・前文科事務次官も指摘しているように、15年6月に閣議決定された「日本再興戦略改訂2015」の獣医学部新設を認めるための4つの条件に合致するところを正しいプロセスで選んだのかということ。規制改革の是非ではなく、規制の穴の開け方が不公平、不透明ではないかと問われています。今回の今治市や加計学園の提案は4条件に合致しているとは思えず、内閣府や諮問会議で十分な議論がされた形跡もありません。

 桜井 政府は獣医学部新設を認める理由の1つに公務員獣医師の不足を挙げていますが、そうであるなら、定数を増やせばいい話。公務員獣医師が足りないのは処遇の問題で、処遇を改善せずに新たに学部をつくるのは、総理のお友達に利益誘導を行うためとしか思えません。

 今井 さらにひどいことに内閣府は加計学園が新設する獣医学部が4条件を満たしているかどうか、「新たな感染症対策や先端ライフサイエンス研究を行う獣医師の育成」が可能な体制を整えているかはチェックしていないと言い切っています。

 桜井 そう、文科省が農林水産省に求めていた需給の具体的な数値についての質問に山本地方創生大臣は、「需給の数量をはっきり示すのは無理だ」と明言しましたから。「神の見えざる手である市場メカニズムによってしか決まらない」と。

新しい獣医学部にふさわしい教育は提供されるのか

 今井 当面の方針としては、前川・前事務次官や和泉総理補佐官の証人喚問などを通じて虚偽をあぶり出していくというのが第一。加えて、学校建設費が異常に高い点も注視しなければいけません。総額195億円と、文科省が定める大学設置基準の下限と言われているもの(定員160人の場合、最低基準価格は34・1億円)の6倍もの建設費を計上し、今治市は建設費の半額の上限96億円を出すと決めています。

 桜井 同じ加計学園が13年前、千葉県銚子市に千葉科学大学を開校しましたが、銚子市は多額の補助金を提供した結果、財政破綻寸前になり、一時は市民病院が廃院になるという事態が生じました。

 今治市は今年3月、すでに37億円相当の土地を無償譲渡しています。これだけの予算があるのなら、他のことに使った方がよっぽど市民のためになるのではないでしょうか。

 今井 要するに、政府が隠し続けている状態が続き、さらに新たな問題が出てきている。終わりというよりむしろ拡大している状況です。

 加計学園の獣医学部新設計画は、文科省の「大学設置・学校法人審議会」(設置審)が認可を審査していて、8月下旬にも結論が公表される見通しです。これまで同様、設置審でも通すことを前提に進められるとなれば、恣意的すぎるという話に当然なる。十分に議論されたかを見極めていかなければいけません。

 桜井 設置審では「高齢の教員が多い」など教育の質を疑問視する声も出ている。本当に最先端の教育を提供できるのか。卒業しても獣医師になれないのでは学生がかわいそうです。こうした点も踏まえ、いったん白紙に戻して手続きをやり直すよう、引き続き求めていきます。

※7月26日インタビュー。文中の肩書き等は当時のものです。

(民進プレス改題28号 2017年8月18日号2面より)

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