脱炭素社会へ世界が向かう革命的転換

 フランスのオランド前大統領が「平和的な革命」とたたえた「パリ協定(注1)」。地球温暖化をストップさせるために、世界が決意した変革の意味と、日本が進むべき道とは。NPO法人気候ネットワーク理事の平田仁子さんと「次の内閣」ネクスト環境大臣・内閣府特命大臣(原発事故収束及び再発防止)の田島一成衆院議員に語ってもらった。

パリ協定は社会変革を求めている

 田島 今世紀中に化石燃料利用と温室効果ガス排出を実質ゼロにしようというパリ協定は、気候変動問題解決への道筋を示す歴史的な転換点です。

 しかし、パリ協定後の日本の対応は後手に回っており、昨年の温暖化対策推進法改正にしても、長期目標が見えないお粗末なものでした。

 平田 パリ協定により、世界が脱炭素社会の実現に向けて合意した直後でしたから、当然この流れと整合する法改正が求められていました。

 ところがこの改正を見ると、日本の環境政策が20年前から変わっていないことに気づきます。排出の大部分を占める産業界の自主的な取り組みや国民の努力に期待を寄せつつ、近い将来の革新的な技術開発でブレイクスルーしようというアプローチ。この方向性は計画性を欠き、無理があることは明白です。

 パリ協定が世界に求めたのは、脱炭素化(注2)しながらも新しい経済を起こし、豊かな社会を作り出すための社会変革なのです。

 田島 世界を見渡すと、脱炭素化の流れは非常に速い。かつて石油王と呼ばれていたロックフェラー財団などが、化石燃料資産への投資から撤退するダイベストメント(注3)をし始めています。

 一方日本には、このような動きがほとんどありません。それどころか、相変わらず化石燃料開発の投資に力を注いでいる現状は、パリ協定と逆行しています。

 平田 「日本はパリ協定と全く矛盾している」というのが、世界の見方です。日本は石炭関連技術の最大輸出国であり、金額ベースでは世界一。CO2を生み出す技術によって、世界に汚染をばらまいている国と見られています。パリ協定を批准しどんなにきれいな言葉を並べようと、実質的には高炭素経済(注4)を助長してしまっている。日本の信用は失われる一方です。

 それでも日本が姿勢を改めないのは、高炭素経済が重厚長大の産業界支援へとつながり、現政権の目指す経済復興と合致するからです。

 パリ協定以降、世界の潮流は大きく変化しています。高炭素経済に期待した経済成長は、今後大きなリスクとなるでしょう。

米国の離脱を越えて世界は先に進む

 田島 中国、米国という排出大国(注5)を含めた諸国が批准し、世界の足並みがそろったかに見えたパリ協定ですが、直後にトランプ政権による離脱がありました。

 平田 米国の離脱は、確かにダメージでした。しかし、この動きに他国が追随することはなく、米国がリーダーシップを失いつつあることが、温暖化問題で明らかになったという印象です。

 他国の脱炭素化に向けての結束はむしろ高まっており、決定的な影響は感じていません。ただ一つ心配なのは、米国を気にしすぎる日本の動向です。

 田島 北朝鮮問題などで、トランプ政権との親密さをかなりアピールしていますからね。離脱の道連れなんてことにならないか心配です。

 平田 さすがにそれはないと思いますが、環境問題への取り組みがますます停滞する懸念はあります。

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環境政策が新たな社会を作り出す

 田島 日本が世界から取り残されないために、今後どんな取り組みが必要だと思いますか?

 平田 これまでの日本は、経済対策と環境対策をてんびんにかけ、常に経済を優先してきました。

 しかし、パリ協定以後の流れでは、経済と環境を分けて考えること自体が時代錯誤的です。

 温暖化対策は、単なる環境問題ではありません。それは、新たな経済を作り出し、これまでの経済の質を変えていくもの。新たな国づくりと言ってもいい。

 田島 フランス政府が2040年までに国内でのガソリン・ディーゼル車の販売を禁止すると発表しました。

 政府が野心的な目標を立て、経済界を巻き込み、国をより良きものとする姿勢が感じられますね。

 平田 環境問題を政策の中心に置くと、新しい社会が見えてきます。

 環境保全の取り組みにより新たな経済循環と雇用が生まれ、エネルギーコストも下がる。その努力は、世界の評価にもつながる。

 環境や経済だけではなく、貧困、平和、食糧問題などを考慮した、持続可能な社会をつくる統合的な取り組みが必要です。

 田島 環境問題を真ん中に置く視点は、現政権にはありません。これこそ、われわれが主導して変えていくべき課題だと思います。

 環境政策は、経済発展を阻害するためのものではない。これまでの産業に新たな倫理と技術を注ぎ込み、発展させていくべきものです。ここで政治に託される役割は非常に大きいと思います。本日はさまざまなご助言をありがとうございました。

(民進プレス改題28号 2017年8月18日号6面より)

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