北海道で高品質な乳製品を作り続けるノースプレインファーム株式会社。質にこだわった酪農への思いと、産学連携での地域活性化の取り組みを紹介する。

 地域の経済、産業を支え、人を育て、未来をつくろうとしている人々が全国にいる。北海道紋別郡興部(おこっぺ)町で農薬などを使わない放牧地に50頭の乳牛を飼育し、乳製品などを製造・販売するノースプレインファーム株式会社もその一つだ。

 同社で、代表取締役社長を務める大黒宏(だいこく・ひろし)氏は、徳島から北海道に入植し酪農を始めた大黒牧場の4代目。小学生の頃から「どうして給食で地元の牛乳が出ないのか」と疑問だったという。「地元の人に搾りたての牛乳を飲ませたい」。そんな思いを実現するため大黒社長は先代の後を継いだ。

 「当時、新規乳業許可は99・9%無理だと言われていました。しかし、当時農林水産省にいらした民進党の篠原孝衆院議員をはじめ、たくさんの方々とお話をするうちに『100%変えられない法律はない』と考えるようになったのです」

 乳業許可を認めない方針だった行政に粘り強く交渉を重ねた大黒社長は、1988年に念願の乳処理業の免許を取得。同年、ノースプレインファーム株式会社を設立した。

規模ではなく質の追求で、酪農の未来を拓く

 ノースプレインファームでは、オーガニックの乳製品に力を入れている。飼料を輸入に頼りがちな現在の酪農にとって、そのハードルは高い。しかし、同社では小規模であることを逆手に飼料から製造までを管理し、オーガニック製品づくりを実現している。大黒社長の酪農は、規模の拡大ではなく、質の追求にある。オーガニックの取り組みもその一つなのだ。実際に同社の乳製品は、品質の高さから大手航空会社のファーストクラスの機内食や一流ホテルのレストランでも使われている。

 質とともに、大黒社長が大切にしているのがテロワール※という考え方。2009年にフランスの農村を訪ねた際、ソルボンヌ大学の元学長であるジャン=ロベール・ピット氏からその言葉を初めて聞き、感銘を受けたという。

 「グローバル化だけが生き残る道ではない。手間がかかっても高品質なものを求める消費者は必ずいるという内容でした。フランスでは、その土地にしかない価値を大切にするという・テロワール・が根付いており、高品質のワインやチーズづくりを支えています。このテロワールと観光を組み合わせ、フランスは農業観光で23兆円もの収入を得ています。小規模酪農家でも、地域の価値を生かして品質を追求すれば新たな道が開ける。私たちもオホーツクエリアで『オホーツクテロワール』を展開し、地域を盛り上げたいのです」

北海道大学と連携したプロジェクト「北大マルシェ」

北海道大学と連携したプロジェクト「北大マルシェ」

夢を共にし、会社の挑戦を支える仲間

 しかし、発想が大きいだけに、周りから理解を得るのも簡単ではない。特に国から補助金を得て大規模化を進めている農家も多く、個人としては大黒社長の考えに賛同するが、組織として動けない現状もあるという。

 そんな中、大黒社長の考えを理解し、共に農業の未来を考える仲間がいる。ノースプレインファームの従業員たちだ。バター本来の風味が楽しめる発酵バターづくりの技術を伝承するため、大手の乳製品メーカーを定年退職後に同社に入ったバター職人。地元食材を使った料理・販売実習を通じて子どもたちに地元の魅力を伝える大黒社長の奥さま。働くスタッフ全員が、大黒社長の挑戦を支え、日本の農業を豊かにしたいと願っているのだ。

大学と連携した取り組みを地域活性化のきっかけに

 そんな大黒社長たちの取り組みに水上美華(みずかみ・みか)北海道第12区総支部長も共感する。

 「昔のオホーツクは、冬は流氷で漁業ができず、重粘土の土地で農業もままならない厳しい土地でした。しかし、いまではホタテの養殖やサケ稚魚の放流などで日本を代表する漁業生産地域。農業も土壌改良が進み高い生産性があります。これは地域の方々の長年の努力のたまもの。国の農業政策はこうした地方の質の高い粘り強い努力を考慮し、地元の意見を十分に反映する政策をしなければならないと感じています」

 現在、大黒社長は地域活性化の起爆剤として、北海道大学と連携したプロジェクトを進めている。それは、大学で採れた牛乳を使った新ブランドの展開だ。

 「北大の農場では輸入穀物をほとんど使っておらず、非常に質の高い牛乳が採れます。大学では販売できないということで、うちが買い取り新たなブランドとして売り出すことにしたのです。お盆明けには物販を行う新店舗がオープン、さらに8月23日には店舗併設のレストランも開業します。一人でも多くの人に来ていただき、直接商品を手に取ってもらうことで量だけでなく質も大切だということをあらためて考えてもらうきっかけにしたいですね」

 農業関係者、学校関係者、そして消費者の意識改革にもつながる大黒社長とノースプレインファームの取り組み。国の政策に流されず、確固たる信念を持ってクリエイティブに活動することで、そこにしかない価値が生まれる。政策は、そんな人々の取り組みをフォローできるものでなければならない。

※フランス特有の概念。「土地」を意味する「Terroir」からきている。主にワインの生育に関する「土地」「気候」「地形」などの環境を総合的に重視する考え方。

(民進プレス改題28号 2017年8月18日号8面より)

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