介護職員の業務負担が大きく、それが介護現場での労働力不足の一因となっています。現場の負担軽減や利用者の心のケアなどに、ITや各種のロボット技術の活用が進められています。「党第4次産業革命小委員会」の事務局長である礒﨑哲史参院議員が介護の現場を訪ねました。

ロボットの導入が介護現場にもたらした成果と課題

 介護の現場は力仕事が多く、24時間体制での巡回、見守りが欠かせません。こうした肉体的・心理的な負担などもあり、労働力不足が常態化しています。急速な高齢化で拡大していく介護の需要に対して、現場を改善し、介護従事者を確保することが急務となっています。

 こうした問題に対し、I Tや各種のロボット等の先進テクノロジー・機器を取り入れ、課題の解決に積極的に取り組んでいる「社会福祉法人シルヴァーウィング」が東京都中央区内で運営する「特別養護老人ホーム新とみ」を礒?議員が訪問。同法人理事長の石川公也氏らの案内で現状を見学しました。

 同施設では2013年度からロボットを導入。現在活用されているロボットは15種類を数えます。

 ロボットは大きく分けて2種類あります。一つはスタッフを支え、介護現場の労働生産性や効率性の向上を目的とする、「マッスルスーツ」や「見守りロボット」などの介護支援型ロボット。もう一つは利用者の自立を促進し、個人の尊厳保持を実現するための機能回復訓練(リハビリ)などの自立支援型ロボットです。これまで、どちらの場合も一定以上の成果が上がっています。

 また、特に目覚ましい成果を発揮しているのがイヌ型やアザラシ型のコミュニケーションロボットで、接触や声掛けを通して認知症の利用者の生活に落ち着きと活気が生まれ、会話の種類や交流が増えるといった効果が表れています。

 一方、このように新たなテクノロジーを現場で導入する中で、課題も見えてきました。介護保険給付制度の見直しなどの検討と環境整備、安全基準や品質基準等のルールづくり、現場のニーズとロボット開発シーズを結びつけるしくみ、個人のニーズに合うカスタマイズ機器の開発などの課題が、変化の進む介護現場から浮かび上がってきています。

【対談】体と心のケアの両面でロボットが活躍。現場の課題が発展の基礎となる

対談

石川公也(いしかわ・きみや)氏 社会福祉法人シルヴァーウィング理事長(右)
礒崎哲史(いそざき・てつじ)参院議員(左)

 礒崎 4月に党の第4次産業革命小委員会でお話を伺いましたが、今日あらためて、ロボットの活用現場を見学し、感銘を受けました。まず導入のきっかけは何ですか。

 石川 東京都産業労働局の「課題解決型雇用環境整備事業」に採択され補助金を得たのを契機に、記録の電子化と労働負荷の軽減という2つの業務の効率化を目指しました。手書きだった介護記録等の電子化によって、利用者の情報がリアルタイムで分かるようになりました。また、職員の多くが腰痛持ちといわれるなか、ロボット導入による職員の業務負担の軽減を考えました。

 礒崎 「ロボット」の導入としてマッスルスーツなどは容易に想像できたのですが、介護される方の睡眠状態や離床、脈拍数・呼吸回数などをモニターに表示したうえで、その睡眠データの蓄積などを行う見守りロボットなど、想像以上に広範囲に最先端技術が導入されているんだなと気づきがありました。

 石川 夜間、1時間に1回、職員が安否確認をしますが、バイタル(※)の状況は分かりませんので、人の目にプラスしてテクノロジーを使うことで、利用者の安全性が高まったことは間違いないと思っています。同時に、離床を把握し転倒予防ということで導入したのですが、人によって「大丈夫」の基準が違います。

 礒崎 その人に合うように調整する作業が必要ですね。

 石川 メーカーによる改良が必要です。個々に対応できるようカスタマイズされ、こういう状況ならこの人はアラームを鳴らすとか進化してほしいですね。マッスルスーツなども効果的ですがそれ自体が重い。地域包括ケア、在宅福祉が叫ばれるなか、職員が持参してアシストできるよう、改良が求められますね。

 礒崎 職員の負担軽減の結果、施設利用者の方の違う面にも気づいてあげられるなど、質の向上にもつながっていると現場を見て思いました。

 石川 そうですね。介護の質の向上が導入の一番の目的です。リハビリを支援するロボットが利用者の自立促進に役立っているように、ロボットの技術革新が進んで、装着すれば自分でトイレに行けるとか、ロボットが衰えた機能をカバーしてくれることで自立した生活を送れるようになることが理想です。

 礒崎 コミュニケーションロボットを相手にずっと会話されている方も印象的でした。コミュニケーションこそ人の役割が大きいものと思っていましたが、逆にロボットだからこそできるコミュニケーションが実際にあるのだなと一つの驚きでした。

 石川 メンタルヘルス系のロボットは重要です。憲法でも「健康で文化的な生活」とうたっているように、体の健康だけでなく、心を満たす文化的な面のフォローも大切です。

 礒崎 皆さんが喜んでいる顔を見ると、これはいいんだなと直感的に思いますね。ロボット活用の今後の課題はどう考えますか。

 石川 ロボットは個別の作業には力を発揮しますが、一連の作業を担うのはまだまだ難しい。先ほども言ったように、個々の利用者へのカスタマイズも課題です。

 礒崎 利用するなかで見えてきた課題をメーカーにフィードバックすることが重要ですね。われわれ政治家にも共有させてください。本日はありがとうございました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

礒崎議員は施設内を見て回り、実際に体験もした。

◆◆介護する側を支える◆◆

 職員の力を効率的に活用していくことは、介護施設を運営する上での最大のテーマと言えます。そのためにさまざまなロボットが導入されています。

見守りロボット


絶えず目を配る  見守りロボット

 職員に代わって常に細やかに目配りをし、利用者に異変があった場合に職員が即座に対応できるようにします。

 「接触型」と「非接触型」があり、ベッドマットの下に置く「接触型」のセンサーは、脈拍、呼吸回数などから利用者の「睡眠・覚醒・離床」を認識し、PCモニターに表示します。「非接触型」ではベッド上方に設置したセンサーから発する赤外線で入居者の動きを検出し、人工知能処理により状態を常時スマートフォンで確認できるシステムも備えられています。

 これらのシステムにより夜間等の見回りを適正化できるだけでなく、入居者の睡眠データを蓄積・管理することが可能になります。

マッスルスーツ

マッスルスーツを作動させると、空気圧が加わり

腰がスーと自然に伸びて軽々と物を持ち上げられる。

腰への負担軽減  マッスルスーツ

 ベッドから車いすへの移乗、入浴補助など、職員の腰への負担が大きい作業時にそれを大きく軽減するのが、「マッスルスーツ」です。

 腕で持ち上げる動作に対し、空気圧で最大30キロフォースの力を補助。職員の腰痛の危険を避けるだけでなく、これまで2人がかりで行っていた作業を1人でできるようになるなど、職員の効率的配置にも役立ちます。また介護従事者の腰の動きを、生体電位信号を読み取ることで積極的にアシストするように動く「腰用ロボットスーツ」も活用されています。

 ただ、こうした機器自体の軽量化、装着方法の簡略化などはまだ課題とされています。

アシストベッド



安全に移乗・離床   アシストベッド

 電動ケアベッドの片側半分が電動リクライニング車いすとして分離する離床アシストベッドは、利用者を安全にベッドから車いすに移乗させることができます。





可搬型階段昇降機




車いすのまま上下階へ移動  可搬型階段昇降機

 介助者1人で歩行困難者の階段昇降を簡単に手助けできる介助移動機器は、これまで職員が何人もかかって行っていた昇降作業の負担をなくしました。エレベーター、リフトのない住宅では特に効果を発揮します。
 利用者に恐怖感を感じさせない配慮もされています。








◆◆介護される側にも寄り添う◆◆

 利用者、すなわち介護される側に貢献するロボットは、身体的と心理的に効用を持つものに分けられます。職員を補助しつつ、介護の質の向上に大きく役立ちます。

コミュニケーションロボット


豊かな感情を引き出す  コミュニケーションロボット

 利用者に会話や感情表現を促して心を癒す「コミュニケーションロボット」。アザラシ型、犬型、人間型などさまざまなタイプが導入されています。ロボットとの交流を通じて会話を引き出し、動作を誘引する効果もあります。

 ロボットと一対一での会話が難しい方は職員がサポートします。

 訪れた日も、職員や実習生を交えてとても楽しそうにロボットに話しかけている利用者の方がいました。

歩行訓練ロボット


「自分で歩く」を助ける  歩行訓練ロボット

 伝統的な歩行器とは全く違うレベルの補助・訓練機能を提供するロボットが活用されています。

 左の歩行訓練ツールは、リフト機能で体を吊り上げることで下肢に掛かる負荷を軽減しつつ歩行を補助します。

 自動車メーカーの開発による歩行リハビリ支援ツールは、歩行時の股関節の動きを左右のモーターに内蔵された角度センサーで検知し、制御コンピュータがモーターを駆動。装着することにより、効果的な歩行動作を自然な形で手助けします。

※体調を把握するための心拍数・呼吸(数)・血圧・体温の数値。

(民進プレス改題29号 2017年9月15日号4・5面より)

民進プレス電子版のお知らせ: