愛知県豊橋市で高度な地域医療に取り組む社会医療法人「明陽会 成田記念病院」。来年4月には「成田記念陽子線センター」を設立するなど、地域医療の発展に貢献し続ける同院の取り組みを紹介する。

 愛知県豊橋市の「明陽会 成田記念病院」は、「人の優しさと温かさを根源にした先進の医療を目指して」という基本理念を軸に、地域が必要とする医療を追求。創設者である成田竹蔵初代院長の「患者さんに優しく、その上で新しい良い治療を提供する」という思いを、今も引き継いでいる。実際に、初代院長は外科医として卓越した能力を発揮し多くの患者を手術で救い、2代目の成田眞康院長は、1969年に三河地区でいち早く腎疾患での透析治療を導入することで腎臓不全の患者を救ってきた。3代目となる現院長の成田真氏は、がん治療に力を入れ、放射線治療のなかでも先進的な陽子線治療装置を導入した「成田記念陽子線センター」を2018年4月に開設する予定だ。

患者に優しいがん治療として期待される陽子線治療

 陽子線によるがん治療とはどのようなものか、成田院長は次のように話す。

 「一般的な放射線治療はがん細胞に対する効果は高い反面、身体の深いところには届きにくい。そのため深いところにある病巣を治療する場合、放射線の通り道にある正常な組織も傷つけてしまうという難点がありました。しかし陽子線には、飛程距離の最後でエネルギーを最大に放出する特性(ブラッグピーク)があります。陽子線治療は、この特性を利用することで正常組織へのダメージを最小限に抑え、がんに集中的にダメージを与えることができます。さらに、当院が導入する陽子線装置は『ペンシルビームスキャニング照射法』という新たな照射法で、複雑な形状の腫瘍にも放射線の正確な照射を可能とし、これまでに比べて治療準備期間を短縮することができる。患者さんにとって身体的な負担が少なく、優しい治療法として、今後がん治療のスタンダードになっていくと考えています」

 特に小児がんについては、今後成長していく正常な細胞になるべく影響を与えないために、このペンシルビームスキャニング照射法による陽子線治療が最適と言われている。

医療で豊橋の活性化の手助けを 高額な最先端治療装置を導入

 しかし、現状では導入に多大なコストがかかるため、民間の病院で導入しているところは少なく、一般に普及するには至っていない。では、なぜ成田記念病院は導入を決めたのか。

 「陽子線治療装置の導入に至った決め手は、さまざまあります。治療に携わる医学物理士や診療放射線技師といった人材を確保できたこと。こうした専門的な人材については、大学からバックアップを受けられることになったのが大きな支えとなりました。また、『成田記念陽子線センター』の立地も恵まれていました。豊橋駅から徒歩3分という場所にあり、アクセスの良さから、多くの人に気軽に訪れてもらえると思ったのです。そして、先代、先々代から受け継いだ、患者さんに優しく、新しい良い治療の提供という理念に合致すると感じたのも大きな決め手です。民間でやるからには本当に喜ばれることをしたいという思いが脈々とある。民間が頑張らなければ、地方は衰退していく一方です。特に医療は、人々の生活になくてはならないもの。ここが手薄になっていくと、人口はどんどん減っていく危険性があります。私自身、豊橋市の出身ということもあり、医療の立場から地域活性化の手助けができないか、近隣の住民だけでなく、少し広いエリアから患者さんが治療に来ていただければ豊橋の活性化につながるのではないかという気持ちもあります」

最新の陽子線がん治療装置の導入を記念して世界大手のベルギーIBA社より贈られたパネル。

最新の陽子線がん治療装置の導入を記念して世界大手

のベルギーIBA社より贈られたパネル。

暮らしを支える安心の象徴としての医療

 成田院長の医療は地域活性化の一翼を担う存在という考えに、関健一郎・愛知県第15区総支部長も賛同する。

 「今、全国の中核都市と言われる人口30万人規模の都市で、医療の不足から人口減少に拍車がかかっています。つまり、医療がどれだけ頑張れるかが、地域活性化の鍵なのです。多くの方が、地方に引っ越しをする際に総合病院の有無を気にかけています。地域活性化のポイントは人が住むことですが、人が永住を決めたり移住を決めたりする第1条件は、やはり医療なのです」

 「私は、医療は空気と同じだと考えています。普段は意識しないけれど、徐々に少なくなっていくと不安になり、なくなると生活ができなくなってしまう。そんな風に衰退していく地方都市が増えていく中で、豊橋市は人口30万人の都市としては非常に医療が充実しています。それも、成田記念病院をはじめとする民間の病院が中核となって地域の健康を支えているのです。本来は行政に頼りたいところですが、日本各地で叫ばれている医療不足の問題になかなか同時には応えられない。そうした時に、豊橋市では民間の病院が一定の公的な役割を果たし、地域を支えるという新しい形が出来上がってきていると感じます。医療に限らずあらゆる分野で、行政と民間がお互いに足りないところを補い合うことができるようになれば、地域活性化はうまくいくはず。豊橋市はその良いモデルになると思っています」

 近隣の都市でも徐々に医療の提供が難しくなりつつあるなか、「成田記念陽子線センター」のような存在は、医療機関が地域の生活を支える基盤であることを示す、一つの象徴となるのかもしれない。

(民進プレス改題29号 2017年9月15日号8面より)

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